12話 モフモフが家族になりました

 意識が浮上する。夢の中で俺は全てを思い出していた。


「アレク!」


 ナージャが俺にしがみついてくる。それと腹の上に何やらモフモフした存在がいた。


 クリっとしたつぶらな目をこちらに向けてくるモフモフ。そういえば、こいつを拾って帰って、すぐに出撃したからな、すっかり存在を忘れていた。


「大丈夫なの?」


「ああ、問題ない、それと。すべて思い出した」


「そう……」


 ナージャはわずかに悲しげな眼をして、それでも微笑みを俺に向けてくる。


「けどな。あのときみたいに力におぼれていないのがわかるんだ」


 そう伝えると、俺は掌を真上に向けてそこに力をイメージする。


 深紅の魔力がルビーのような輝きを放って現れた。




「きゅー!」


 その魔力の塊をなぜかモフモフが口に入れた……っておい!?


「もふちゃん!?」


 ナージャが仮に付けた名前はモフらしい。っていうかこいつに名前を付けてやらんとな。


 魔力の塊を吸収したモフモフは、全身真っ白な毛におおわれていたが、額のあたりだけの毛が黒く染まっていた。何やら満足げな表情を浮かべている。




「ところで、こいつって……なに?」


「んー、多分だけどフェザードラゴンだと思うよ?」


「へー、大きくなるの?」


「ある程度の経験を積んだドラゴンなら、大きさは変えられるし、乗っけてくれるかもね」


「はは、それはいいなあ」


 というあたりでモフモフことフェザードラゴンが口を開いた。


(主様、奥方様、わたくしにお名前をいただけますか?)


 ナージャと顔を見合わせる。


「しゃべったよな?」


「……うん」


「ドラゴンってみんなしゃべれるんだっけ?」


「一部の古龍とか、レベルが高くなった存在なら……あとは」


(先ほど魔力をいただき、眷属となりました!)


 なんかドヤ顔でモフモフが宣言する。




「あれってつまみ食いっていうよね……?」


「うむ、飼い主の許しなしに餌を食べるとは、しつけがいるな」


 と言うあたりで、微妙に涙目になったので、ふさふさの毛並みを撫でてやる。手触りは最高だった。ナージャの髪のつぎくらいには心地よい。


(えと……名前、付けてくれませんか?)


「ああ、そうだな。いつまでもモフとかだとよくわからないし」


「そうねえ。モフでいい気もするけど。可愛いし!」


「それでいい?」


 モフモフは再び涙目で首をブンブンと振っている。どうも嫌らしい。


(主殿につけていただく名前が重要なのです!)


「ふむ、そうだな……お前の名前は「フェイ」だ。どうかな?」


(ありがとうございます! 空龍神リンドブルムの名において、我は空を駆け巡る者! ニーズヘッグ様の祝福を得た騎士、アレク様の眷属とならん!)


 なんかすごく物々しい宣言がなされた。


 フェイの中で、先ほど飲み込んだ俺の魔力が渦巻き……弾けたように見えた。




「あらー……」


 ナージャが呆れたようにフェイを見る。子犬サイズから大型犬サイズに成長していた。


「フェイ、だよな?」


 もの凄い勢いでしっぽを振っている。わんこか!?


「主殿、奥方様。我が名はフェイ。空を駆ける竜となれました。コンゴトモヨロシク……」


「あ、ああ。よろしくな」


「ふわあああああああああ!!」


 ナージャがフェイに抱き着いた。毛並みに顔をうずめて頬ずりしている。


「お、奥方様?」


「ナージャ」


「は、はい?」


「わたしの名前」


「存じております……?」


「そんなお堅い呼び方嫌なの」


「は、はあ……」


「ナージャって呼ばないと、ずっとモフモフするからね!」


「いえ、それむしろご褒美ですがあああああああああああ!」


 とりあえず、俺の嫉妬の目線を受けてフェイがガクブルし始めた。ナージャは渡さん!


「え、えと……ナージャ様。これでよろしいですか?」


「もー、しょうがないなー。それでいいよー」


 ナージャは満面の笑みを浮かべてフェイを撫でている。手つきが優しい。フェイも目を細めて喉を鳴らしている。


 一軒家に綺麗な奥さんと、可愛いペット。幸せってこういうのを言うんだろう。


「ペットじゃないですー! 眷属です!」


「どう違うの?」


「う……私は主様を……」


「うん、癒してくれるんだよな」


「ふぇ? ええ、回復魔法のスキルはありますよ?」


 なんというハイスペック。空も飛べるし、回復もできるし、てちてちと俺を叩いていた手には、がっつりと鋭い爪が付いていた。下手な冒険者より強そうだ。




 と言うあたりで、ドアがノックされた。


「アレク! ナージャさん! ゴンザレスさんが目覚めたぞ!」


 マークだった。とりあえずフェイが器用にドアを開けて、出迎える。


「ぶわ!? 魔獣!?」


 うん、たしかに大型犬サイズの白いモフモフで、魔力感知ができるやつならあれ、やばいよね。


 事情を説明したらマークはその場にへたり込んだ。風属性の魔力をまとっているので、マークの魔法のほとんどが通じないらしかった。




 とりあえずフェイには今まで通りのサイズになってもらった。俺の頭の上にぽすっと乗っかっている。


「アレクが……かわいい……」


 ナージャがなぜか顔の下半分を押さえてプルプルしていた。




「ゴンザレスさん!」


 ベッドで包帯まみれになって転がっているゴンザレスさんを見舞う。


 場所は村長の館だ。大広間にシーツを敷き、まさに野戦病院の様相だった。


 ゴンザレスさんはトロールを3体討ち取り、力尽きて倒れたらしい。満身創痍で、治癒魔法が間に合わなかったら死んでいた可能性もあったとかなんとか。




「おう、アレク。やっぱりお前はすげえやつだったな」


「……それは一体?」


「おう、俺も今日まで信じてなかったんだけどよ。占い師に言われたんだ。アレクはいつか過酷な運命に巻き込まれるってな」


「巻き込まれるっていうか自分から飛び込んだというか……」


「ま、いいじゃねえか。お前が無事ならそれでいい。幸いにして死人は出てないしな」




 ちなみに、俺の力と記憶はナージャの力と一緒に封印されていたらしい。俺が覚醒したのと同時に、ナージャの力も解放され、戦闘不能と言うか、瀕死になっていた冒険者たちに治癒魔法をかけて回ったそうだ。


 そのため、冒険者たちはナージャを女神と崇め奉っているそうである。ナージャは俺のだけどな。大事なことなので、改めて言っておく。ナージャは俺の嫁だ。




「アレクよ。いい嫁さんもらったなあ。というか、故郷に帰って結婚しますって聞いたときは、見栄張ってんじゃねえって思ったぞ」


 ゴンザレスさんがガハハハハと豪快に笑い、ほかの冒険者たちも一緒になって笑いだす。口笛とか指笛も鳴り響き、クエストが終わった後の打ち上げのような雰囲気だった。

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