40話 なし崩しって恐ろしいよね
「決まっておろうが、お主はすでに我ら以上の力を持っておる。いわば世界最強の存在だぞ?」
お主という呼び方にこれまでのような傲岸な雰囲気はない。むしろ神とすらあがめられている龍たちに敬意を払われていることに、ものすごい違和感を感じた。
しかし理解してしまった。彼らからはこれまでのような威圧感を感じない。彼らがその力を減らしたことがまずその一つ。そして、彼らの力を分かち与えられたことによって、自分の力が果てしなく増大し、それ以上の存在となってしまったことなのだろう。
とりあえずへたり込みたくなったが、それを許さない状況。レンオアム公爵の軍が破れれば、故郷は帝国に蹂躙される。
そして、義勇兵として迎撃軍にゴンザレスさんたちが加わっていると聞いた。軍が敗北すれば彼らもまた生きてはいないだろう。
いろいろと頭が付いてこないこともあって、髪をガシガシとかきむしる。
「そうそう、我ら3名、これより王たるアレクの眷属とならん」
「おお、それは良いな。わらわにもあのような可愛い子を授からんことを望むぞ」
「よろしくね、主殿」
何となくまとめ役になってるっぽいベフィモス様がシレっと爆弾を落とした。
「待ってくれ、俺が子供を作るのはナージャとだけだからね?」
その一言に、うんうんと満足げに頷くお義父さんことニーズヘッグ。さっきまでエイルを取り合って爺ちゃんと取っ組み合いをしていた姿からは想像もつかないほど威厳に満ちていた。
「ふはははは、ツッコミどころがそこか! やはりお主の器は計りしれぬな」
これもなぜか嬉しそうに高笑いするベフィモス様。
「むう、いつかわらわの方を振り向かせてくれようぞ」
「えぃ!」
世迷言をほざくレヴィアタン様に、俺が強化されたことで力を増したナージャが飛び蹴りを放つ。「ふぉおあああああああああ!?」派手に吹っ飛んでいってバリケードに突っ込むが、何事もなく戻ってきたあたり、最強の龍王の一人は伊達じゃない。
「そろそろさー、面倒なことは後進に押し付け……譲って楽隠居したいんだよね?」
見た目とセリフの違和感がすごいことになっている。ただ、千年の長き眠りにつきつつもこの世界の行く末を見守っていた。そのことには感謝と尊敬の念がある。
「ほら、エイルちゃん可愛いしね」
その一言に、ベフィモス様が目じりを下げ、レヴィアタン様は慈母のような微笑みを見せ、爺さんどもどころか、エルフたちも頷いている。
可愛いは正義か、そうか。
というあたりでエルフたちが俺を取り囲んで跪いてきた。
「アレク様。我ら森のエルフはあなた様に付き従いましょう」
うん、とんでもないことを言い始めた。そして反射的に断ろうとしたら爺ちゃんがすっと前に出て口を開く。
「わかった。アレクに代わりこのアクセルがそなたらの意志をアレクに飲ませようほどに」
「おお、アクセル殿。感謝いたす!」
爺ちゃんが勝手に彼らを受け入れた。もうどうすんだよこのカオス。
「それで、どうするのです?」
途方に暮れている俺にサクッとヒルダ嬢が横やりを入れてくる。
「ああ、とりあえずフェイ! いくぞ!」
フェイに乗って先行しようと考えた。別にこのカオスから逃げたいわけでは無い……はずだ。たぶん。
「ふえええええええ、主様、わたしどうなってしまったんですかあああああああ!?」
そういえば忘れていたが、こいつ人型になっていた。パニック状態のフェイにナージャが助け舟を出した。
「フェイ、あなたの本質を思い出すの。空を駆けるあの姿を。はやく帰ってきなさいモフモフ!」
ナージャの言葉は前半は良いと思うんだが、後半は欲望駄々漏れだ。うん、なんか人型のフェイに言い知れぬ警戒感がある。ナージャに抱かれたエイルがぽーっとフェイの顔を見ている。
いざとなったら……消すか。などと考えているが、フェイのパニックは収まらない。するとリンドブルム様がフェイの身体に触れてその力をコントロールして、姿を戻してくれた。
ボムッと音を立ててフェイは元の姿に戻って……いなかった。やたらでっかくなっている。
さっきからグリフォンは哀れ、五体投地状態だった。四肢を伸ばして全力で腹ばいになっている。そしてついにはまさに龍王といった風情のフェイを見てひっくり返ってお腹を見せた。鼻を鳴らして必死に媚を売る姿は、人ひとり載せられるのに小動物的な感じだった。
少しはレベルアップしたとしても、この連中の力を見れば誤差の範囲だよな。
「うん、ボクが運ぼうか?」
「へ?」
ここまでグダグダになっているあたりで、リンドブルム様がさらっと提案してきた。たしかに、大きくなったフェイでも5人くらいを載せるのが限界だ。ヒルダ嬢はグリフォンに乗ってもらうとしても、とりあえず爺ちゃんとお義父さんまでだなーとか考えていた矢先だ。
「いやだなあ。アレクはもうボクたちの主なんだから、様付けはやめてよ」
にっこりととんでもないことを言いだす。いつの間に……って力の譲渡のときか。眷属化してつながりができていることを感じる。
「おーい、ベフィモス。みんながのれる程度の足場作ってよ」
「む? ……これでいいか?」
ズダンと足踏みをすると、エルフたちを含めても全員がのって余裕があるほどの地面が切り取られる。
「おっけー。んじゃ行くよー!」
エルフたちもあまりの事態に固まっているが、爺ちゃんが檄を飛ばすと、再起動を果たす。負傷者の治療をはじめ、武器の点検、整備など、帝国軍にカチコミをかける気満々である。
さらにエイルの護衛を買って出た女性たちも、なぜか革鎧などで武装している。世界樹の枝から削りだした杖を装備していた。
「ナージャ様から魔法を教わっております」
誇らしげに彼女らは宣言し、前線には出ないが後方支援は任せろと告げてきた。
「森は良いの?」
「我らは祖先より守護者としてかの森に縛られておりました。しかし、その命もすでに果たし、龍王様方の結界が森を守っております。我らを過去のしがらみから解き放っていただいた貴方様にお仕えしたく思います」
族長のセリフに、「あんたら再び縛られに行ってますから!」と突っ込みかけるが、さすがにやめておいた。
「街って行ってみたいよね?」「そうそう、いろんな服とか楽しみだわー!」「いい男……捕獲するの!」「エルフ男みたいなひょろっとしたのじゃなくて、もっとワイルドなのがいいよね!」
女性たちの希望に満ちた言葉にいろいろかき消されたことと、エルフを縛っていたしきたり、因習からは解き放たれたように思えたから。
そのこと自体がいいのか悪いのかは判断がつかない。けれど、変わることは必要なのだろうなと思った。
そして後の世に語られる、「騎士王アレクの石の箱舟」すなわち、エルフたちを帝国の弾圧から救ったとされている美談はこうして生まれた。内情はかなりグダグダだったけど、伝説ってこうやって脚色されるんだなって知ることができたことは……。
そんなこんなを載せて、フェイの飛ぶ速度を上回るペースで、石の箱舟は南下を始める。そして、龍の力でさらに強化された俺の眼には、一筋の黒煙が上がっているのを見つけていた。
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