67話 レンオアムへ
ナージャが吹っ飛ばした後、エイルのヒールで回復したニーズヘッグと爺ちゃんをとりあえず正座させた。
ナージャが笑顔で二人の前で仁王立ちしている。
「ケンカはダメって言ったよね?」
「「しかしこいつが!」」
異口同音に言い訳をしようとするが、内容まで全く同じ当たり実際には仲がいいのだろうか? 世の中には喧嘩友達というものもあるくらいだしな。
「お父様?」
「ごめんなさい」
ナージャの笑顔の圧力に耐えかねたのだろう。すごくきれいな姿勢の土下座だった。
「おじいちゃん?」
「すまんかった」
二人そろってじつに見事な姿勢である。
そしてとどめの一言が投下された。
「うー、ケンカするおじいちゃんはきらいなの」
エイルがちょっと涙目で二人を責めると、目の幅で涙を流しながらエイルの手を取り、もうケンカはしないと約束する二人。
「約束だよ」
エイルが天使のような笑顔で二人に告げる。
爺ちゃんとニーズヘッグの後ろから、ナージャがサムズアップしている。実に素晴らしい教育だ。
「ってことで、爺ちゃんも留守番お願いできる?」
「ま、仕方なかろう。行軍訓練を兼ねて騎士団の一部隊を呼び寄せてある]
「それ公私混同……?」
「一応ここは対帝国の最前線故な。アレクという重石がなくなったときに帝国がどう動くか、じゃの」
「まあ、我もおる。婿殿はきっちりと役目を果たしてくるがよい」
「はい、じゃあ、お願いしますね」
という感じで話はついた。同時にミズチがフリーズ状態から復帰して俺にすごい剣幕で飛びついてきた。
「アレク殿。ここはいかなる人外魔境であろうか?」
「その言われようはひどいな」
「いや、吾輩も龍の端くれで、黄龍様の眷属で五指に入るのですが?」
「ああ、そうだろうね」
「アレク殿には言うに及ばず、ナージャ様にすら指先一本触れることはかなわんと確信できるのですが」
「ナージャに指一本でも触れてみろ。生まれてきたことを悔やむような目に合わせるから」
「冗談に聞こえませんなあ」
「にゅふ、にゅふふふふふふ、やだもーアレクったら嫉妬? 大丈夫よ、わたしはアレクだけが大好きなんだから、にゅふふふふふふふふふふ……」
その通りだから何にも言えねえ。
久々にトリップしているナージャを見て、ニーズヘッグが若干げんなりしている。
「あれだな、我が娘がここまで色ボケすると、父としては若干忸怩たるものがだな」
「それを言ったら、孫が人間やめてたんじゃぞ?」
「一応言っておくが、当人の意志じゃぞ?」
「わかっとるわい、さもなくば貴様を真っ先に槍の錆にしておる」
二人は顔を見合わせて何とも言えない笑みを浮かべた。
「では、まずはレンオアムに向かいましょうぞ。そして彼の町から東の街道沿いに進みます」
「了解だ。……で、ミズチは飛べる?」
「龍の身になれば雲をまとい天を駆けましょう」
「フェイ!」
とりあえずフェイを呼び出した。ミズチの顔が再び驚愕に支配される。
「アレク殿? この方は……フレースヴェルグ様では?」
「当人じゃないけどね。力を継いでいる。同時に俺の力も分け与えているから」
「アレク様の一の眷属、フェイと申します。今後とも良しなに」
ミズチが固まるのも無理はない。ミズチ自身の力はだいたい爺ちゃんと同じくらいだ。あとはニーズヘッグ、ナージャが同程度の力で、龍王クラスである。魔力だけで言えば、エイルはこの二人の上をいく。ただし、エイルは攻撃魔法がほぼまるっきり使えない。
使えるのは、全魔力を溜めて放つブレスだけだ。そしていっぺん撃つと、行動不能になる。普通は力をコントロールして放つものだが、なぜかエイルにはそのコントロールができなかった。
回復魔法は恐ろしく緻密な魔力制御をしてのけるだけに、これも才能というものなのだろう。
一応確認したが、ミズチの飛行速度はフェイの半分にも満たなかった。とりあえず、フェイに大きくなってもらってその背中に乗り込む。
「よーし、んじゃしゅっぱーーーつ!」
ナージャが笑顔で宣言した。村のみんな、ジーク爺さんやゴンザレスさん、チコさんとギルドの冒険者たちは笑顔で手を振っている。
「アレク、留守は任せとけ!」
ゴンザレスさんが髭面をゆがめている。手の中には赤ん坊がいた。先日クレアさんが生んだ子だ。
「よろしくお願いします!」
エイルが笑顔で両手を振っている。守りたい、この笑顔。
フェイが魔力を展開して風を操る。虚空を蹴りあがって、フェイは大空へと飛び上がっていくのだった。
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