「コミカライズ連載中」スキル0冒険者の俺、結婚して龍王の騎士となる
響恭也
第1話 冒険者失格の烙印を押されました
「すまん、アレク。うちもいろいろと厳しくて、だな」
俺はついに来たかと、パーティーリーダーであるゴンザレスさんのセリフを黙って聞いていた。
「ええ、わかりますよ。こちらこそすいません。お役に立てなくて」
「お前のことは気に入っているんだ。まじめで良く働くし、仕事に手は抜かねえ」
「ええ、けど、スキルがない冒険者なんて……でしょ?」
物分かりの良すぎる言葉にゴンザレスさんは髭面をゆがめる。苦渋の表情に俺も胸が痛んだ。
「これはな、お前のためを思ってのことでもある。このままやってたら、お前はいつか死ぬ? 俺は行方不明のお前を探すなんてクエストは受けたくないんだ!」
勢いよく飲み物のジョッキをテーブルに叩きつける。その物音にギルドのざわめきが一瞬止まった。
「そう、ですね。わかりました。ゴンザレスさん。本当にお世話になりました」
俺は深々とお辞儀をする。この人は本当に面倒見のいい人だった。頭をあげないのは、目元に浮かんだ涙を見られたくないのもあった。
「そうか、アレク。達者でな。こんなことを聞くのもなんだがこれからどうするつもりだ?」
「とりあえず故郷の村に帰ります」
「そうか。なんてところだ?」
「ティルの村です」
故郷の村はこの街から駅馬車を乗り継いでひと月ほどかかる。新米冒険者が旅するには過酷な道のりだ。
「お前、よくあんなところから出て来たな……」
「いろいろと運がよかったんですよ」
駅馬車の乗り継ぎがすぐできたり、ランクの高い冒険者が乗り合わせたりとかいろいろあった。
「そうか、近くの宿場まで送って行ってやろうか?」
「いえ、これ以上ご迷惑をかけるのは……」
「馬鹿野郎。お前は俺のパーティにいた。ってことははだ、お前は俺の息子も同然だ」
再び目元が熱くなる。けど必死に笑顔を作った。
「そうですね。けど、ちょっと一人でいろいろ考えたいので……ありがとうございます」
「そうか。いつかお前の村を訪ねて行くよ。達者でいろよ?」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってゴンザレスさんは髭面をゆがめて手を振っていた。最初はあれが笑ってると分からなくてすごく怖かったが、とてもいい人なのだ。
彼の言う厳しいというのは新人冒険者の世話で出費がかさんでいるのだろう。ベテランが多く所属しているが、少なくとも彼自身に入る収入はほとんど新人支援のために消えている。
駆け出し冒険者だった息子さんを失ってから、彼は常にそうなのだ。だから彼を父と慕うものは多く、中には高名なゴールドランクの人もいるとかなんとか。
結局、俺はクエストではお荷物で、場合によっては守るために手を割かないといけない場合もあり、パーティからも白い目で見られていた。
俺が何度申し出てもゴンザレスさんは俺をかばうのをやめてくれなかった。むしろそのことに俺の方がつらかったのだ。
ただ、不思議なことに俺が参加するクエストで、失敗したことは一度もなかった。出来事としては些細だが、討伐クエストで壊滅しかかったとき、猟師が残した罠にモンスターが引っかかったり、探索クエストで宝箱が見つかったりと、収入が増える出来事が多かったのだ。
けれど俺のパラメータでLUK(幸運)が特に高いわけではなく、俺の影響かと言うとそうでもない。
いろいろと不思議ではあったけど、お守り代わりに使われていた。お守りもされていたが。
定宿にしていたミズチ亭を後にする。宿の女将であるクレアさんから餞別にとお弁当をもらった。レッサーワイバーンのフライを挟んだサンドイッチだった。
「こんな高いもの……」
「いいんだよ。またいつかこっちに来たらいらっしゃい。その時はお嫁さんでも連れてきてくれたら嬉しいねえ」
恰幅の良い体をゆすりながら呵々と笑う彼女も少し目が潤んでいた。ちなみに、ゴンザレスさんの奥さんでもある。
その一言で俺は幼馴染の少女を思い出した。いや、忘れていたわけじゃないけど、お嫁さんの一言に真っ先に思い浮かんだのが彼女のことだったんだ。
いつかあいつ、ナージャにこの街の風景を見せてやりたい。そう思えた。故郷の村で俺のことを待っていてくれるんだろうか? そう思うとちくりと胸が痛んだ。
「はい、その時はまた!」
「龍王様のご加護があんたにありますように」
真摯に祈る姿勢からは本当に俺の旅の無事を祈ってくれているのがわかった。再び溢れそうになる涙をこらえ、俺は笑顔で別れを告げたのだ。
ふと思い立ってギルドに向かい、手紙を書いた。あて先はナージャだ。「冒険者をやめて帰ることにした」と簡潔に綴り、封をして所定の手続きをとる。
ちょっと値段はかさむが飛竜便で出してもらうことにした。おそらく数日で手紙は村に届くだろう。
俺は白竜の町レンオアムを後にして、故郷のある北へ足を向ける。冒険者をだったころの思い出が胸をよぎる。冒険者の身分が過去のものになってしまったことに少し胸が痛む。
駅馬車に乗る。アイテムなどは売り払い、今は簡素なレザーアーマーとバックラー、それに故郷から持ち出した片手剣が荷物のほぼすべてだ。
だから路銀はひとまず潤沢にあった。そして帰り道でも不思議な出来事は続いた。駅馬車を襲おうとした盗賊団は、たまたま居合わせた騎士団に背後から襲われて壊滅した。
モンスターの襲撃は、前の宿場で乗り込んだ人が高名な魔術師で、こちらに近寄ることもなく魔法の矢(マジックアロー)で撃退された。
そしてひと月の旅路を終えて、俺は3年ぶりの故郷の村にたどり着いた。先に手紙を出しておいたのだが、誰かいるだろうかと思っていると……一人の少女が立っていたのだ。
「お帰りなさい、アレク!」
そういうと彼女、ナージャは金の髪をなびかせながら、俺の大好きな微笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。
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