世界はその姿を取り戻す

 王宮の応接室には三大龍王が集っていた。とはいってもその呼び名はミドガルズ王国に限ってのことで、彼らに匹敵する龍王は存在する。

 それでも彼らの力は世界でも有数であり、それこそ天変地異を起こすことすらできた。

 

 力を失った大地は息を吹き返し、流れを失い淀んだ水は清らかさを取り戻した。風が吹き抜け木々を揺らした。


「信じられぬ……」

 荒れ果てた土地が見る間に復興していく様を見て、黄龍は呆然としていた。


「あ、これ植えてみて」

 リンドブルムが差し出す若木の苗を見てまさかと表情が固まる。

「それは……?」

「うん、世界樹の若木」

「ちょおおおおおおおおおおお!?」

 その内包する力は苗であっても龍王に匹敵するものだった。

「長老の木が力をなくしかけてる。いまはボク達の力で何とかなってるけど、これはいわば緊急措置だよ」

「左様、割れた器に水を注いでもいずれその水は漏れ出る。なれば器を直すか、新たに作るよりあるまい」

「で、あるな。王宮の中庭に俺の爪を埋め込んだ。横の池にはレヴィアタンの鱗が沈んでいる」

「あ、あとね。庭の鳥さんに加護を与えてあるから」

 次々ともたらされる知らせに、黄龍とその夫は目を白黒させている。

「その長老の木に苗を接ぎ木したらいい。そして新たな約を結ぶんだ」

「それでその子の世は安泰じゃないかな? もちろん君らが正しく在ることが前提だけどね」


「ああ、無論だとも。もう同輩を失うことはしたくない」

「うん、じゃあそれでいいよ」

 

 黄龍は夫の手を取り、二人で若木を手にした。庭の片隅の古木に近づけると、若木は音もなく吸い込まれ、古木から萌えるように若葉が芽吹く。

 古木は淡い光を放ち、周囲の力を取り込むと……一気に育った。


 地面に根が張られ、幹は天に向かって伸び、枝が王宮を覆うかのように広がった。


 王宮の古木は、この国全土に張り巡らされた水脈とつながっている。地に降り注いだ雨はそのまま地下に吸い込まれ、水脈の流れとなる。

 その流れはあるところで地面に顔を出し、川となる。

 地と交じり、風に運ばれ、この国を巡る。


 そのめぐる力を木が蓄え、その時々によってその力で調和を保っていた。ただ、長きにわたる争いが、木の力を徐々に奪って行く。

 土地は痩せ、流れはよどみ、風は吹かなくなった。

 自然の恵みが減れば、より争いは激化する。


 そして転機が訪れる。異国の龍王が争いのもとを断ち切った。彼の眷属はよどみ、廻らなくなった力を再びよみがえらせた。

 新たなる王のもと、その姿を取り戻した国は、再興の時を迎える……。



 万雷の拍手のもと、舞台は幕を下ろした。隣ではナージャとエイルが笑顔で拍手している。そして、なんかいろいろ脚色されまくった部分に俺は頭を抱えていた。

 あれから1年が過ぎ、俺たちは黄龍夫妻の招きに応じて再びこの地を訪れている。

「この国の歴史を舞台にしたのです! ぜひ見て行っていただきたい!」

 あまりの剣幕に断ることができず、一家で升席に腰を下ろした。四人で座っても全く問題はない広さが確保されており、途中で出てきた食事も実に美味だった。


 そして、膝の上では息子が目をキラキラさせて俺を見上げていた。

「パパ! パパってすごいんだね!」

「あ、あー……」

「ふふふ、そうだよ! アレクはすごいんだから!」

「パパはすごいのよ!」

 妻と娘がなんかいろいろと俺のハードルを上げる。そうこうしていると、先ほど紹介された、黄龍夫妻の息子がやってきて、うちの息子と仲良く話している。


 一件落着、ということでいいのだろう。元気よく笑っている子供たちを見て、ナージャが微笑む。その笑顔を守れたんならそれでいいか。そう思うのだった。

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