83話 新たなる世代へ

「ピイイイイイイイイ!」


 鷲の鳴き声っぽいのが聞こえる。頭上を見るとどっかで見たようなグリフォンが急降下してきていた。


 足元にいたフェイが魔力を操作すると、上昇気流が生じ、グリフォンの降下というか、墜落速度が緩和された。


 グリフォンの背にはヒルダ嬢と、胸元に赤ん坊がいる。生まれてたのか。


 そして、ヒルダ嬢は目を回しており、グリフォンも制御できないような感じだった。




「フェイ、任せた!」


「はい! 我が祖たるリンドブルムの名において命ずる。風精よ、我が意に従え!」


「エイル!」


「はーい、うにゅろろろろー、ウォール!」


 再び風が巻き起こり、グリフォンの翼に吹き付ける。同時に、エイルが発動させた障壁魔法がグリフォンを下から支えた。


「慈悲なる御手、癒しの女神よ! 汝が愛し子を癒し賜わんことを。状態回復キュア!」


 ナージャがすかさずと言ったタイミングで治癒魔法をかけると、目を回していたヒルダ嬢とグリフォンの眼に光が戻る。


「ふぬうううううううああああああああああああ!!」


 とりあえず、深窓の令嬢とか、王太子妃とかの肩書にあまりふさわしくない雄たけびを上げてヒルダ嬢は体勢を立て直すことに成功した。




 グリフォンは何とか着地に成功し、腹ばいになってへたり込んでいる。


「ふしゅうううううう……」


 同じくぐったりしているヒルダ嬢。それはいい、いいんだが、なんでこの人がここにいるんだ?


「えーっと、お久しぶり。ヒルダさん」


「ふあ、ナージャさん! お久しぶりですわ……ってもしや?」


「あ、わかりました? ええ、そうなんです」


 何やら女性同士でわかりあっていた。元黄龍だと紛らわしいので黄老と名乗ることにした爺さんの横で、紅玉さんも何やらうなずいている。




「えーっと、それは良いとして、いったい何事が?」


「はっ、そうですわ。東の国境を突破してドラゴンが数頭、我が国に入ってきましたの!」


「なんじゃと!?」


「アレクさん、こちらの方は?」


「この国の先代です」


「まあ、これはこれは。わたくし、ミッドガルド王国の王太子妃、ヒルダと申します。こちらは娘のアウスラですわ」


「ふむ、儂が出向こうか」


「っていうか、力の大半を譲り渡したんでしょうが」


「むう、状況は如何?」


「ええ、ニーズヘッグさんが出張ってきてちょっとOHANASHIしているそうですわ」


「ああ、んじゃ大丈夫でしょ」


「直接的な被害はなかったので良いのですが、とりあえず事情の確認と、アレクさんたちの様子を見てくるようにってシグルドが」




 事情はよく分かった。被害が出て似合いようで何よりだ。


 それにしても、あんだけの目に遭ってあれだけの魔力にさらされながらぐっすりと眠っているあたり並じゃない。そこにエイルがやってきて声を上げた。


「はわ! かわいい、かわいいの……」


「うー、あー、あー」


 赤ん坊は目を開くと、エイルに笑みを向けた。


「パパ、この子にプレゼントしてもいいかな?」


「ああ、そういえば……ナージャ?」


「ええ、これね」


 魔法の袋から取り出したのは紅い宝石がはめ込まれたペンダントだった。


「ちょっと!? なにいきなり国宝級のアクセサリとか用意してくれやがってるんですか!?」


「まあ、わたしまた力が使えなくなるからね。その前に用意したかったんだよ」


 ん? 力が使えなくなるって? 前にも同じようなことが……?


「まて、ナージャ。まさか……」


「うん」


 ちょっと恥ずかしそうに、同時に嬉しそうにお腹に手を当てるナージャ。


「……エイル。お姉ちゃんになるんだぞ!」


「うん、ママのお腹にもう一人いるね! まだちっちゃいけど、わたしと同じ!」


 エイルはナージャに抱き着いた。それはいつものように飛びつくような勢いではなく、そっと近寄って静かに触れ合っている。


「素晴らしいですわあああああああああああああ!!」


「まったくじゃ!」


「龍王に新たな御子が!」




 というあたりで、この国の国王夫妻がやってくる。


「アレク殿、何かありましたかな? 何やら感情が弾けたような魔力の波を感じましたが」


 というあたりでエイルがわあっと声をあげる。


「パパ、黄龍さんもおなじ!」


「え? どういうこと?」


「えっとね、ママとおんなじだよ!」


「それはめでたい!」


「なにっ!?」


「むう、ばれてしまったか」


 ミズチこと応龍がものすごい形相で詰め寄る。


「お前! 何考えてんだ! 大事な体であんな無茶を!」


「無茶もする! 我が子を荒れ果てた国に居させたいか!?」


「そういう問題じゃない!」


「ま、それは置いとこうか。ちょっと地図見せて……なるほど」


 俺は自らの力と、レヴィアタン、ベフィモス、リンドブルムの力を最大限発揮し、彼らが進めていた国土の復興を前倒して進めた。


 俺個人は魔法はそう得手ではないが、彼らはそれぞれの属性のエキスパートだ。


(アレク殿、今回はちと骨が折れた。ナージャ殿の料理を所望する)


(あ、いいねえ。ボクもごちそうになろうっと)


(ふむ、わらわが一番尽力したによって、料理のリクエストなんかさせてもらえぬかの?)


 念話で3人の話を聞き、とりあえずリクエストをナージャに伝えた。


 応龍が黄龍をむぎゅッと抱きしめ、1年間の産休を取らせることを約束させていた。

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