待ち人帰る

「ナージャちゃん。お手紙だよ」

 近所のおばちゃんがわたし宛の手紙を持ってきてくれた。差出人は……アレクだ!

「うふふ、良かったわねえ。あの子も元気にしているみたいで」

 わたしの表情の変化から色々読まれたのだろう。はずかしくなって顔が赤くなるのがわかる。

 おばちゃんはにこにこしていた。いつもそれとなく世話を焼いてくれ、とてもありがたい。

 村の男の子たちがわたしに言い寄ってきた時も一括して蹴散らしてくれた。

「この子にはもう好きな相手がいるんだよ! そんなこともわからないのかい!」

 わたしの言いたいことを代わりに言ってくれた。どうもアレク以外の男の人とはうまく話せない。特に強い感情を向けられたらもうダメ。何も話せなくなってしまう。


 家に帰って手紙の封を切る。アレクが出て行ってもう二年になる、その間一度も手紙は来なかった。

 そうして開いた手紙には一言こう書いてあった。

「冒険者をやめて村に帰ることにした。明日、馬車に乗る」

 手紙を書いてあった日付は一〇日ほど前だった。ということは……明日にはアレクが村に着くということになる。

「大変、こうしてはいられないわ!」

 大慌てでおばちゃんにアレクが帰ってくると伝えた。

「そうかい! それは良かったねえ」

「うん、だからね。精一杯お迎えしてあげたいの」

「そうだねえ……あ、あんたたち! ちょうどよかったわ!」

 通りがかった村の若者たちを捕まえると、おばちゃんは色々と頼みごとをしてくれていた。

「え? アレクが帰ってくるの!?」

「そうか! 無事でよかったよ」

「「そういうことなら任せて!」」

 そこからはあわただしかった。自警団の団長をしているジークさんは大喜びで、自警団の人たちにいろいろ指示を出している。狩りに出てくれるようだ。

 他の村のみんなも少しずつだけど食材を持ち寄ってくれた。

「こっちの服はどうかな?」

「んー、ちょっと地味よねえ。せっかくだからこれなんかどう?」

「あ、ナージャ。このリボンつけてみない?」

 わたしはなぜか着せ替え人形にされていた。村の少女たちが持ち寄った服を次々と着せられる。

「くっ、あたしの服だと胸がきついって……」

「ダメよ、そこは気にしたら。っていうかあんたは良いわよ、まだ成長の余地はあるんだから……」

 胸元がきついって言ったらすごい勢いで睨まれた。これは禁句らしい。


「そういえば前に言ってたよね。アレクと結婚するって」

 お友達の一人がぽつりと漏らした一言に周囲が色めき立った。

「う、うん。子供のころにね、ずっと一緒にいるって約束したの」

 周囲から黄色い悲鳴が上がる。同時に絶望的な声が男性陣から聞こえてきた。

「うふふふふ、ナージャが片付けばわたしたちにもチャンスが……」

 何やら妙な雰囲気になってきた。ギラリと目を輝かせた村の女の子たちはまるで獲物を見るようなまなざしで男の子たちを見ている。

 今までわたしに群がっていた女の子たちはそれぞれ散り散りになって男の子たちと話している。

 というわけで、わたしはアレクのことを考えることにした。とりあえず、気に入った色合いの服を借りることにして、手直しをする。花嫁修業としてお裁縫はばっちりだ。


「うん!」

 おすすめのリボンを着けて、ワンピースを着る。ちょっとスカートが短いのが恥ずかしいけど「これならアレクもイチコロよ!」って言ってくれたお友達の言葉を信じることにした。

 いろいろと準備を済ませ、家の掃除が終わったので少し早いけど寝ることにした。睡眠不足はお肌の大敵だし。

 そうしてわたしは目を閉じる。次に目を覚ましたらアレクが帰ってくる。そう思ったら胸がドキドキして来るけど、アレクの笑顔を思い浮かべたら不思議と安心した。

「にゅふ、にゅふふふふふふ」

 なんだかおかしい。体がくすぐったいような感じがして身もだえてしまう。そして顔が自然と笑ってしまう。いけない、こんなだらしない顔を見せちゃダメ! 最高の笑顔でアレクを迎えるんだ。そう決意してわたしは目を閉じた。

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