49話 謎のダンジョンと来訪者
「……というわけなのです」
ゴンザレスさんに伴われてギルドに行ったら、ティル支部長の女性から説明があった。
「いや、なにがどう、というわけなんですかねえ?」
「むー、ノリが悪いですー」
「帰っていいですか?」
ととりあえず立ち上がると服の裾を掴まれた。
眼をウルウルさせながらすがるような目つきで見てくる。というあたりで、スパーンと派手な音がして「ふみゃ!」と猫のような悲鳴を上げる女性、チコさんがいた。
「おい、チコ、悪ふざけはそれくらいにしやがれ!」
ゴンザレスさんの一喝にも平然としているあたり、並じゃないのだろう。
「あ、ごんちゃーん。今日もいい大胸筋してるわねー!」
「ごんちゃん言うな! あとこの胸は嫁専用だ! 嗅ぐな!」
「くんかくんか……むう、ほかの女の匂いがする。うわきもの!」
「浮気も何も、嫁だっての!」
うん、何なんだろうこの空気。帰っていいかな?
「さて、ダンジョンのことは知ってるわよね?」
「ああ、リンドブルムから」
「リンド……はぁ!?」
「チコ、アレクは文字通りの龍王だ。ランク分けじゃなくて、龍たちを従えている意味で、だ」
「お、おう。そんなとんでもない人、いるのねえ……どうりでわたしの筋肉センサーが働かないわけだわ。規格外すぎるのね」
「それはいいから……」
「おい、話が進まねーぞ」
二人のツッコミにめげずにボケ続けるこの女性はいろんな意味で大物だった。
「ということで、アレクさんたちにダンジョンの調査をお願いしたいのです。これは国から発行された正式な依頼となります」
「俺、ライセンスはく奪されたんですが?」
「再発行の手続きは進めてあります。明日には書類がそろうでしょう」
「いいのか……?」
「パーティはゴンザレスさんのところで申請していますので、ヘンテコな勧誘とかは来ないはずです。およびゴンザレスさんには北の動乱での活躍を認められて、ランクAパーティへの昇格が決まってます」
「んだと!?」
昇格の事実を聞いて、祝福を告げようとする前に当人が驚いて立ち上がっていた。
「あ、ごめーん、ごんちゃん。今伝えたからいいわよね?」
「……まあ、いいさ。めでたい話だしな」
ランクA以上は一定以上のランク、もしくは身分の者からの推薦がいる。あとで推薦状を見たが、シグルド殿下とかレンオアム公爵とか、シリウス将軍とか(砦の責任者になったとき昇格した)、まあ、そうそうたる顔ぶれだ。
推薦状を見てゴンザレスさんが顔を引きつらせていたことはとりあえず内緒だ。
「で、条件は?」
「とりあえず……ごんちゃんのパーティに支度金で20万。あとは持ち帰った情報に応じて1万~100万ね。それと発見物は報告はしてもらうけど、基本は発見者のものでいいわよ」
「にじゅっ!?」
金貨で20万枚あれば……ちょっとした財産だ。ドラゴンの鱗が手のひらサイズのもので金貨10枚~くらいの相場らしい。
要するにこの依頼はとんでもない難易度ということだろう。
「何が目的だ?」
「あのダンジョンね。まだ帰還者がいないのよ」
「……駆け出しは結構戻ってきてるぞ?」
「そうね。表層部は危険性もそれほど高くないし、罠もそこまでないみたい。けどね、中層から先に調査に向かったパーティの帰還率がゼロ」
「誰が行った?」
「有名どころではね……」
うん、あかん。王都の一線級のパーティが未帰還とかどんだけ。
「アレク、どうする?」
「出来たら受けてもらいたいなーって思うんだけど」
「リンドブルムの話だと、彼らが龍王になる前の時代の遺跡らしいよ?」
「ふぁっ!? 何それ!?」
「んー、だから龍王の血からでも通用するかはわからないってことだなあ」
「……それって何気にとんでもないことじゃないのか?」
ゴンザレスさんが真顔だ。そしてチコさんも難しい表情を浮かべている。
「もう少し情報を集めてみるわ。また、来てもらうかもしれないけどよろしくね?」
「アレク、すまん。俺からも頼む」
「ゴンザレスさんがそういうなら……仕方ないですね」
「恩に着る」
「いえ、そもそも俺があなたに恩を返しきれていませんからね」
「……そんなことはないと思うんだがなあ?」
「まあ、そこらへんはお互い様ですよ」
「そういうことにしておこうか」
ふと不穏な気配を感じてカウンターを見ると……。
「うふ、うふふふふふ、男同士の友情。素敵! 尊いわあああ!!」
なんかビクンビクンしているチコさんがいた。
「帰るか」
「そう、ですね」
とりあえず、そのままいるといやな予感しかいないので、俺たちはギルドを後にした。
「おう、婿殿。何やら面白そうなことになっておるな」
帰るとニーズヘッグ義父さんがいた。
「ああ、お義父さん。御無沙汰しています」
エイルがお義父さんの膝の上ですやすやと眠っていた。とりあえずベッドに寝かせようとしたところ、その手をガシッと掴まれた。
何やら涙目で訴えかけてくるので、そのままにしておくことにした。復讐に狂い、怒りの権化となっていた面影はどこにもない。ただの孫バカジジイだけがそこにいる。
そのことが何だか嬉しかった。ナージャも少し目に涙を浮かべているような気がした。
「さて、話しだがな。神代の迷宮が現れたと聞く」
「へえ、そんな名前なんですか?」
「仮につけた名前ではあるがな。大体は間違っておるまいよ」
「で、何があるんです?」
「異界への扉、と言われておる。とある英雄がそこから神の国にたどり着き、女神より武技とルーンと魔槍を賜ったという」
「なるほど……」
「して、挑むのか?」
「まさか」
「なにっ!?」
「なんで何の不満もない家庭をほっぽり出してそんな危ないところに行かないといけないんですか!?」
「なんだとこの軟弱者が!」
というあたりで、エイルが目を覚ました。
「あ、ぱぱー、お帰りなしゃい……すやー」
とりあえず、お義父さんも落ち着いたようだ。穏やかな目でエイルの髪を撫でている。
「たしかに、後ろ髪を引かれるのはわかる。だがな、お前が行かねば……お前の代わりにこやつらを守るという使命が果たせないではないか!」
「出て行けええええええええええええええ!」
ナージャがサクッとエイルを回収し、襟首をつかんでポイっと家から放り出した。
「お父様。アレクの代わりはどこにもいないの」
「ナージャ! お前はその男に騙されているんだ!」
「それでもいい。アレクになら騙されててもいい。けど、アレクはわたしを騙したりしない。置いて行ったりもしない」
「くっ!」
「というか、あんたここに入り浸りたいだけだよな!」
「孫と一緒に暮らすんじゃあああああああ!」
さすがに哀れになって、ソファーを貸し与えることにした。俺たちはいつも通り川の字になって寝ることにした。
「儂も……」
「ここは家族の寝室」
ナージャがサクッとシャットアウトした。
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