48話 ダンジョンが見つかりました
新しい朝が来た。ナージャはキッチンでちょいう蝕を作っているようだ。そして、ドラゴンの姿で丸くなって寝ているエイルを撫でる。
しかしなんで俺の腹の上で寝ている……? モフモフの毛並みが我が子ながらとても素晴らしい。
ポムッと人型に変わった。俺の腹の上で腹ばいになっている状態である。子供特有の体温の高さが、肌寒い朝には心地よかった。
ナージャ譲りの艶やかな髪を撫でていると、瞼がぴくぴくと動いた後、その深紅の瞳をのぞかせる。
「うゆ……あ、ぱぱ、おはよー」
「ああ、おはよう。エイル」
挨拶を返すとふにゃっと微笑んだ。なんて可愛いんだ!
「アレク、エイル。朝ごはん出来たよー!」
ナージャの声が聞こえると「ふわ! ごはんー!」と飛び上がってリビングに向けて駆け出すエイルを見送った後、俺もあとを追いかけて行く。
テーブルには湯気を立てるスープと、焼き立てのパン。ミルク入りのスクランブルエッグ、カリッと焼いたベーコンだ。ほか、畑でとれた野菜もサラダとなって並んでいる。
「「「いただきます!」」」
3人で囲む食卓は暖かく、いいものだと思った。フェイは今旅に出ている。
「主様の安寧を守るため、少し北の方を見回ってきます」
だそうだ。
あのドタバタ騒ぎからそろそろ一年になる。ヒルダ嬢は玉のような双子を生んだらしい。それも男の子と女の子だ。名前はアレスとフィーナ、らしい。
「お前にあやかって名を付けた。強い男になってほしい」
「娘は公爵家の系譜から名付けましたわ。良き妻、母で剣術の使い手でもあったそうです」
とは両親のコメントである。
初めて目にする赤ん坊の可愛さに目を輝かせたエイルが、いきなり双子に祝福を与えたときは大騒ぎになった。
「かわいいのー、おともだちになるのー!」
当の本人はケロッとしていたし、父であるシグルド殿下は大笑いしていたが、周囲はいろいろと騒ぎになったようだ。
エイルに子供を祝福してほしいと貴族たちが色めき立ったのは言うまでもなく、ティルの村も騒ぎになってしまった。
とりあえずひとまとめに並べて祝福の言葉だけでお茶を濁したが、貴族とはいえ人の親。子供たちの未来にいろいろと想いがあるのだろう。
エイルの祝福の効果は色々と凄まじく、子供を抱いた侍女が足を滑らせて転んだとき、赤ん坊は無傷だったらしい。ヒルダ嬢が目を潤ませて報告にやってきた時は何事かと思った。
その侍女も結果的に子供が無事だったのでおとがめなしらしい。それでいいのか、とは思ったが、親が良いのならいいんだろう。
その出自がそれなりの大貴族だったことは知らない方がよさそうだ。たぶんその貴族家、シグルド殿下に頭が上がらなくなるんだろうなあ……。
帝国は静かだ。不気味なくらいに。
復仇のためと称して更なる大軍を動員してきてもおかしくはなかったが、講和を守る様子で、条約も普通に守られている。
交易も活発で、商人たちが喜んでいるとかなんとか。
「いいことではあるのだがな、何かきな臭い気がするのだ」
と、たまにうちに愚痴りに来るシグルド殿下の言だった。
「いよう、アレク!」
「おお、ゴンザレスさん。いらっしゃい」
夜になるとゴンザレスさんが訪ねて来た。レンオアムに行っていたが、先ほど帰ってきたらしい。
「これお土産な」
「あら、ありがとうございます」
ナージャが袋を受け取り、エイルがさっそく中身を漁る。
「これ、エイル! はしたない!」
ナージャが叱ると、エイルがにぱっと笑いながらの「ごめんなしゃい」で陥落していた。抱き上げてすりすりとしている。
「お前んところはにぎやかだなあ」
「ははは、いろいろありましたけどね」
「たしかにな。おかげさんでうちのところも景気がいいわ」
ティルはもはや村とは言えないほどの発展を遂げていた。ゴブリンたちを迎撃した時の柵を更に囲むように石造りの壁が作られている。高さはそれほどではないが、ゴブリンなどの魔物なら乗り越えられないほどの高さだ。
ゴブリンメイジの呪文も防ぐ強度がある。これはレンオアム公爵の支援によって建設された。北の砦の兵站を担う拠点だからっていう理由らしい。森の開拓も徐々に進み、冒険者たちが忙しく働いている。
「そういえば聞いたか?」
「何をです?」
「レンオアム公爵の嫡子に、帝国から嫁が来るらしいぞ」
「へえ、それはおめでたい!」
「皇帝の……13番目の娘らしい」
「それは、どうなんですかね……?」
「妾やらなんやらが10人くらい居るそうだからな。一応皇后の子供らしい」
「生まれた順番はさておいて、序列は高いと」
「そういうことだな。ま、お前さんのおかげだな」
「へ?」
「世界最強の生物相手に喧嘩は売れねえってことだろ?」
そう言われると複雑な気がするが、一応事実だ。ゴンザレスさんは帰っていった。とりあえずごたごたはなさそうで安心しているが、何かが引っかかる感じは俺も感じていた。
それが何かと言われると、言葉にはし難い。けど、何かが気になっていたのだ。
それからしばらくして、フェイの村が色めき立つ情報がもたらされた。北の森の未踏の地でダンジョンが見つかったのだ。
その情報は王国のみならず帝国にも伝わり、多くの冒険者や腕に覚えのある騎士が訪れた。
村は更に賑わいを増し、規模を拡大させていく。そして、リンドブルムがやってきた。
「アレク、あれは……ボクたちすら及びもつかないほど古い遺跡だ。何があるかわからない。気を付けて」
とか言われても、一介の住民である俺にはどうしようもできない。とりあえず成り行きを見守ることにしたのだった。
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