72話 亜人たちの行方

 とりあえず、ファフニールを経由して亜人たちを取りまとめた。彼女も龍族で、今回ナージャの眷属となったので、間接的に彼らを支配することができているわけである。




「アレク、彼らの住処を何とかしてあげたいんだけど……」


 ナージャが上目遣いでさらに首をこてんと傾げた。俺は瞬時に陥落した。


「ちょっと行ってくる」


 俺は飛翔魔法を発動させるとティルの村に取って返し、ニーズヘッグの襟首をつかんでそのまま引き返した。


「婿殿、何事じゃ!?」


「いいからちょっと来てください」


「ぬおわああああああああああああああ!!」


「ナージャがお義父さんに用があるんですよ」


「な、なんだと!? 婿殿、変な髪形になってない?」


「ええ、いつも通りですよ」


「うむ、ナージャ、待っていろ! 父が今行くぞ!」




 そうして、ファフニールのもとへニーズヘッグを届けたのだが、そこではナージャが笑顔で仁王立ちしていた。


 思わず正座してしまう。横を見るとニーズヘッグもピシっと背筋を伸ばし、綺麗な姿勢で正座していた。




「お父様、この子のこと、わかる?」


「ん? ふむ、ナージャほどではないがなかなかの……っていうか、この者の身体がナージャとエイルの魔力で構築されてるのはなぜじゃ?」


「あ、あなたは?」


「うむ、我が名はニーズヘッグ。黒龍王の称号を持つ。ま、龍王としての使命は娘婿に託したがな」


 龍王としての使命とは何だろうか。少し気になって聞いてみた。




「お義父さん。龍王としての使命って、なんです?」


「何をいまさら! 貴様にはナージャを託したであろうが!」


「へ? ってことは?」


「うむ、家族を守ること、だ。ほかになにがある?」


 あまりにきっぱりと言われてあっけにとられる。なので、俺の返答は少しボケたものになった。


「えーと、世界平和?」


「ふん、そんなものはまやかしじゃ。もちろん平和であるに越したことはないが、こっちがその気でも相手がそうでなくば意味はあるまい?」


「まあ、確かに」


「我ら龍はなかなか子ができぬ。そう考えるとエイルなどは奇跡の結晶であろうよ。しからば婿殿。エイルに危害を加えようとする者がおる。どうする?」


「滅ぼします」


「で、あろうが」


 俺の答えにニーズヘッグは満足げな笑みを浮かべた。


 ナージャも笑顔だ。そして、周囲の亜人たちは、龍王二人とそれに近い力を持つ龍三人に恐れおののいている。


「さて、ファフニールとやら。我が狂っている間にそなたらにも迷惑をかけたようだ」


「……別に、それはもういい。ナージャ姉さまの力を受け入れたということはそういうこと」


「ふむ、そうか。なれば我もこれ以上言い募るのはやめよう。して、ナージャの妹ということは我の娘でもある。ナージャよ。我にこの者たちを託すということでよいか?」


「ええ、お父様。お願いできますか?」


「よかろう。ティルの村のそばでは冒険者たちが入り込むな……うむむ」




 ナージャとニーズヘッグが相談を始めている、そして背後で魔力の高まりを感じ、振り向くと……やっちまってた。


 負傷した亜人たちにエイルが治癒魔法をかけている。


「エイルサマ、アリガトウ」


「ううん、いいよー」


 かなり重傷を負っていたんだろう。ゴブリンに対して、上位の魔法をかけたものと思われる。その結果、ゴブリンが進化していた。


「エイルサマ、オレ、ナマエホシイ」


「えー? パパに名前つけるときは最後まで面倒見ろって言われてるの……」


 エイル、違う。それは動物を拾ってきた時の話だ。ゴブリンはそれと違う!


「ダメ?」


「んー……そうだね。フィック、君の名前はフィックでどうかな?」


 エイルがゴブリンに名前を付けた瞬間、パァァと光が彼を包んだ。


 緑色の肌はそのままに、小鬼の姿からたくましい青年の姿に変わったフィックは、いつぞや倒したゴブリンキング以上の力を感じる。




「む? おう、エイルよ。お爺ちゃんのためにゴブリンの王を決めてくれたのか!」


「へ?」


「我が名はフィック。エイル様にいただいたこの名に懸けて、命がけで仕える!」


「おう、頼もしい奴じゃ。フィックよ。ファフニールの補佐を頼めるか? 他のゴブリンやオーガたちを従えるのじゃ」


「はっ! かしこまりました龍王様!」


「お主は我の配下ではない。そうじゃな。エイルの友として守ってやってくれるかの?」


「あ、そうだね! フィックもお友達!」


 エイルがすごくいい笑顔を浮かべている。お友達までだぞ? そこから先は俺を倒してから名乗るんだぞ!?


 などと考えていたら、ナージャが俺の腕にしがみついてきた。


「アレクを倒せる人が出てくる前にエイルがおばあちゃんになっちゃうよ?」


「いや、あの、その、うむむ」


「アレクは世界一強くて、かっこいいわたしの旦那様だからね!」


 周囲の冒険者たちは心を一つにしてこう言っていた。「爆ぜろ」と。




 そうして最終的に、俺がヒルダ嬢のコネを利用して反乱貴族たちが立て籠もっていた砦をそのまま住処として、集落を作ってもらうことにした。


 反乱貴族どもは、とりあえず俺が城門を蹴破ったら即座に投降してきた。帝国との戦いのときに、俺の姿を見たことがあった奴がいたらしい。


 というか、俺とレンオアム公爵家のつながりを考えてなかった時点でいろいろと間抜けな話である。




 レンオアム公と龍族ファフニールとの間で盟約が取り交わされた。後ろ盾は龍王アレク、すなわち俺だ。約束事を破ったら俺が制裁するってことになっているが、正直そういうのは勘弁してほしい。


 とりあえず、ニーズヘッグがちょこちょこと顔を出してくれるので、安心して丸投げする。




 こうしてレンオアムでの騒動はひとまず収束した。そして、その日はレンオアムで宿泊する。定宿のミズチ亭はティルに移転したが、その建物はそのまま残っており、クレアさん(ゴンザレスさんの嫁)の知り合いに譲っていたそうだ。




 そうして眠りについた、その晩。俺のもとにミズチがやってきた。


「アレク殿、ちと話を聞いていただきたいのです」


 その表情は、これまで飄々としていたミズチの雰囲気に、俺は違和感を覚えつつもその話に耳を傾けた。

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