第129話 半熟玉子の親子丼

 消防のお兄さんと別れてから、パトカーは帰路に就いた。


帰りのパトカーの中で、俺とアンツァは疲れて寝てしまった。

ペンションに着いて俺は、警察官と爺ちゃんに起こされた。


「忍君、家に着いたよ」


「忍、起きろ。ほら、ちゃんと警察の方に、お礼を言って」


眠い目をこすりながら、パトカーが止まったところが警察署なのか家なのか、寝ぼけて判断が付かないでいた。


「ああ、これから俺は取り調べを受けるんすか? 

今度こそかつ丼でお願いします」



「何言ってるなだ、忍。家だ、家。

お巡りさん、うちの孫が何か悪いことでもして迷惑をかけたんでしょうか?」


「べ、別に何も。何もありませんよ。

おにぎり、ありがとうございました。美味しかったです。

食べていたら、自分のおふくろを思い出しました。

なんだか、自分が警官を志した頃の事思い出しましたよ。

忍くんは、とてもまっすぐないい少年ですね」


「あや、そうですか? それはえがったです」


「今日は、現場の案内だけのつもりだったのですが、忍くんはもう魔物と戦ってくれて、魔物を本来の世界に帰したと言ってます」


「え、もう?」


俺は、警察官に怒られたことを思い出した。


「そしたら、お巡りさんに怒られちゃった」


「怒られたのか? 忍」


「うん」


警察官が誤解を恐れて、あわてて説明を補足した。


「いやぁ、わたし達はダンジョンとかよくわからなくてですね。

意見の食い違いがあったんです。

でも、それは私どもの認識不足でした。すみません」


「忍、お巡りさんに偉そうな態度をとって反抗していないか?」


「ごめんなさい。本当のことを言います。本部長さんの名前を出して脅しました」


「なにぃ? ……、そういうところは、父さんそっくりだな」


爺ちゃんの言ったことは当たっている。

父さんの背中を見て育ったから、理不尽なことには、理詰めで論破するのが正義だと間違うときがたまにある。



「ホントに申し訳ありませんでした。生意気な孫で。きつく叱っときます」


警察官は恐縮して、そんなことはないと言ってきた。


「いいですよ。頼もしいお孫さんです」


「いやはや、頼もしくなんかありませんで」


「それよりも、今後のことなんですがどうします?」


「は? 留置所行きですか?」


「違いますよ。魔物駆除の計画についてです。

計画では、今日は現場の案内、明日からマタギの訓練で、最後に玉川温泉の魔物の討伐という流れだったんです。

ところが、もう目的を達成しましたのでこっちも混乱しました。

明日からのマタギの訓練は必要無くなりました。 キャンセルしますか?」


もう、訓練する必要がないから爺ちゃんはキャンセルするだろう。

そしたら、俺はダンジョン第5層界で畑仕事に専念したい。


「聞いてください。うちの孫を、最強のダンジョン探索者に育てる。

これが、わしの残りの人生をかけた大仕事なんです。

警察さんには、これ以上迷惑かけられません」


だとね、だよね。警察からの依頼はお断りってことで、いいよね。


「ですから、わしの知り合いに頼んで、マタギ訓練させます。最強のダンジョン探索者に育てる夢は諦めません」


はぁ? な、なんだって? 

訓練するのかよ。


「お孫さんはすでに最強の探索者じゃないですか。まだ上を目指すんですか?」


「レベルなんとか言われても、わしにはピンときません。

こいつは、まだまだ半人前もいいところ。

例えるなら、半熟玉子の親子丼ですよ」


「う、……忍君が意味不明なこと言うのは、お爺さんに似たんですかね」


「何か?」


「あ、いいえ。じゃ、頑張ってください。応援しています。では、ここで失礼いたします」


「ありがとうございます。立派なダンジョン探索者に育て上げます!!」


警察官たちは、パトカーで帰って行った。

爺ちゃんは、パトカーが見えなくなるまでずっと、頭を下げていた。


爺ちゃんから見たら、俺は半熟玉子の親子丼らしい。

それをハードボイルド系に仕上げるために、爺ちゃんは俺を訓練することに命を懸けているのだ。

マタギの里の訓練って、なんなんだよぉー。

ダンジョンの畑に行きたいよぉーーー。

今頃、イモ類と秋ナスが出来ているはず。。


ワン!

(面白いことになって来たぜ)


まったく面白くねぇよ、アンツァ!


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