第2話 めっちゃボコる

 俺は無い知恵を絞って懸命に策を考えた。

懸命に考えた末に、ついに俺は腹をくくった。


「桜庭、よく聞け。俺が魔物を引き付けておくから、

お前はその隙に出入口に向かって逃げろ」


「そんな……、それって最上君がおとりになるということ?」


俺が考えた作戦の詳細を今はいちいち説明している暇はない。

俺は逃げるのをやめ、魔物の方に向き直った。

というより、開き直った。

窮鼠猫を嚙むである。


「ああーー、やめ、やめ! もう逃げるのやめた! 

さてと、こっからは腹をくくって戦いますからね。

さあさ、鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


魔物をわざと煽って、軽く両手をパチンと鳴らし、魔物の気を引く。

案の定、魔物の太い腕は俺をめがけて飛んできた。

俺の計算通りだ。

巨猿の魔物の鋭い爪をギリギリかわす。

それから魔物の腹に拳を一発お見舞いしてやる。

これが効いたのか、魔物の足がふらふらとおぼつかなくなった。


「今だ! 桜庭!今のうちに早く逃げろ」


半泣きの状態の桜庭の背中を押し、その勢いで彼女は魔物がふらつく横をすり抜けて走った。


「あとは走れよ! 止まるな、ひたすら走れ!」


俺が桜庭に向かって叫んだ言葉をかき消すかのように、ぐぁーーーーと巨体が俺に襲い掛かってくる。

その攻撃を難なくかわすと、魔物の巨体はバランスを失って一瞬だけ浮いた。

その一瞬を突いて、俺のグーパンが魔物の顔面を直撃。

そして、次の瞬間には地面の石ころがパラパラと跳ね上がって、魔物は地面にどーーんと沈んだ。

そこをすかさず、魔物に躍りかかって、蹴り上げ、腕をへし折り、手刀で脇腹に打ち込む。


ダンジョン探索者を養成する高等専門学校とは言え、未成年の学生に武器の所持は禁止されている。

晴れて18歳になれば国から許可をもらって初めて武器の所持と使用が認められるのだ。

俺はまだ16歳。

魔物と対峙した場合でも、素手で戦う他に手段は無い。

武器も持たない、特異なスキルも無い状態で、制限時間内にミッションクリアするための方法はただひとつ。

それは、

めっちゃくちゃにボコる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」


魔物の姿かたちごとわからなくなるまで、俺はただ無我夢中で破壊行為を続けた。

魔物は息絶えると煙のように消え、そのあとには一個の魔石が転がっていた。


桜庭はどうやらダンジョンの出入り口付近までたどり着いたらしい。

ピーーッと笛が鳴って先生に異変を伝えているのが聞こえてきた。

ダンジョン内の様子はミニドローンカメラで撮影され、その映像は先生が持っているタブレット端末に送られている。

だから、桜庭の笛が鳴る前から、絶対に先生は異変に気付いているはずだ。

それなのに救出に来ない。

ということは、魔物出現も含めて計画通りに俺たちをこのダンジョンに送り込んだという意味だ。

アクシデントの対処方法も、演習の一貫ととるべきか否か。


それにしても、演習用ダンジョンに現れた魔物には魔石が無いと聞いていたのに、ここに転がっているのはどう見ても魔石だ。


これ、拾っちゃっていいよね。



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