第3話 タイムトライアル失格

「先生、最上君が、最上君が・・・・」


「桜庭、心配するな。最上はもうすぐダンジョンから出てくる」


「魔物が出たんです、魔物が。恐ろしく大きい猿みたいな魔物が」


 泣きじゃくる桜庭の背中が目に入る。


ちょうどその時、俺はダンジョンから脱出してきたところだった。


魔物との戦いから戻ったばかりの俺は、肩で息をしながら先生に報告する。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・最上忍、ただいまゴールしました」


「はい、タイムは20分46秒」


「最速タイムよりも46秒のロス・・・ですね」


「いや、失格だ」


今、失格と聞こえたが聞き間違いか、空耳か。


「ダンジョン奥のチェックポイントにタッチしていない。

最上・桜庭組、失格!」


桜庭は事情を説明しようと躍起になる。


「先生、そうじゃないんです。聞いてください」


普段はおとなしい女の子だと思っていたが、理不尽なことにはきちんと主張しようとするんだな。

そんな桜庭を俺は初めて見た。

それにしても、失格になるとは思っていなかった。

魔物と対峙してチェックポイントなんて頭から飛んでしまっていたのだから、これは完全に俺のミスだ。


「桜庭、いいんだ。俺のミスだ。

ごめんよ、桜庭まで失格にしてしまった」


頭をかきながら謝る俺を、五十嵐先生はちらっと横目で見た。


「お前は、だいたい心構えが甘いんだよ。

チェックポイントを忘れるなんて基本が成っていない。

探索者と呼ぶには、まだまだだな」


桜庭は納得がいかないのか、それでも食い下がる。


「そんな、先生、違います。最上君は・・・・」


ダンジョン内で起こったことを説明しようとし続ける桜庭の口を、俺は手で制して


「五十嵐先生、申し訳ありませんでした」


と、頭を下げた。

揉め事を起こしたくなくて謝ったのではない。

学校にはもっと強いやつがうじゃうじゃいて、俺なんか吹けば飛ぶような雑魚でしかない。そのことは俺自身がよく知っている。

チェックポイントにタッチするのを忘れて、のこのこ帰って来た自分が情けない。

その不甲斐なさを認めて頭を下げたのだ。


ただダンジョンに引きこもってミッションクリアをこなす。

そしてポイントを稼ぐのを楽しんでいるだけの雑魚。

そう、俺にとって探索とはポイ活であり、それ以上でもそれ以下でもない。


「それから先生。こんなの出ましたけど、どうしましょう」


演習用ダンジョンの魔物には無いはずの魔石を持ち帰り、先生に差し出して相談した。

周りにいた同級生がにわかにざわつく。


「なんで最上が魔石を持って戻るんだ」


「演習用でも魔石って出るの?」


「出るわけないだろ。もともと持って来たんじゃないのか」


俺が魔石を持つことでクラスで目立つのは嫌だ。

目立つくらいなら、さっさと俺から取り上げて学校で管理して欲しい。


「先生、預かってもらえませんか」


五十嵐先生はわかったと頷きながら受け取り、魔石について特に言及することはなかった。


本日の演習内容。


― RTA(リアルタイムアタック)―

制限時間 30分

平均クリアタイム 25分

最速クリアタイム 20分


最上・桜庭組の記録。

クリアタイム 20分46秒 失格


桜庭が納得できないのはわかる。

俺が、チェックポイントにさえタッチしていればこんな結果にはならなかった。


ごめん、桜庭。

俺にとっては、こういうことはしょっちゅうだからさ。

先生の指導と言う名のしごきに慣れているから、悔しくもなんともないんだよ。



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