第4話 探索者の育成

 そもそも、どうしてダンジョンのリアルタイムアタックを学校でしているのか。

時計の針を少しだけ過去に戻してみよう。


迷宮探索高等専門学校、東北分校は一学年一クラス、定員10名の探索者養成学校だ。


 この日、二年生のダンジョン探索演習は、

Aダンジョンコース6名とBダンジョンコース4名に分かれた。

そして、担任の五十嵐先生が指名した生徒同士がバディを組み、一組づつダンジョンに入り込んでクリアタイムを競うことになった。


「初心者向けの演習用ダンジョンだから、

別の階層には行かないこと。

手前のチェックポイントに手をついて折り返してくること。

途中、トラップや謎解きがある。

それをうまくクリアして、できるだけ早く戻る。

もしも、制限時間内に帰還できない場合は、入り口に強制移転させられる」


もちろん、ちゃんと説明は聞いていた。

ダンジョンに入る順番が発表されると、俺と桜庭は一番最後だとわかった。

いざダンジョンに入ってみると、先生が言っていたようなトラップも謎解きも無く、最初は拍子抜けしていた。

だが、突然現れた魔物にすっかりテンパってしまい、チェックポイントの事なんかすっかり忘れてしまった。

無我夢中で魔物をボコって、魔石を手に入れて帰還したのに、結果は失格。




「えーっと、それでは演習後の無事を確認するため、全員点呼する」


10名しかいないんだから、わざわざ点呼しなくても目視で確認できそうな気もするが。


「狩野と杉山組」


「故障ありません」


「無事です」





 ダンジョンが世界中に出現して20年。

多くの課題を抱えた地球にとって、ダンジョンの出現はエネルギー問題解決の鍵になった。





「高橋と武田組」


「はい、故障なし」


「故障なしです」





 ダンジョンで人間を襲ってくる魔物を駆除した跡には、魔石が出現する。

世界中の研究機関がその魔石の成分を分析したところ、新しいエネルギー資源として使えることがわかった。

それだけではない。

携帯電話に欠かせないバッテリーや、AI開発に不可欠な半導体に必要なレアメタルが大量に含まれることまで判明した。





「畠山と佐々木組」


「はい、無事です」


「大丈夫でーす」





 魔石の成分が判明すると世界中が新しい秩序の幕開けに舵を切った。

各国がダンジョン攻略のためにしのぎを削っている。

それと同時に、特殊能力に目覚めた者たちが現れはじめた。

各国の特殊能力者はダンジョン探索者として貴重な人材となった。





「藤原と松井組」


「故障ありません」


「はい、故障ありません」





 日本政府もダンジョン探索に力を入れた政策を打ち出した。

魔物を重要指定害獣とし、迷宮探索者という資格を作り、ダンジョン探索は環境保全とエネルギー開発の目玉政策になった。

経済産業省、迷宮探索政策室、迷宮探索技術研究所と役職をやたら作りだすのはいつものやり口。

そして、子供頃から特殊能力に目覚めた者は、迷宮探索高等専門学校の入学試験を受ける資格を与えられた。

探索者の育成に力を入れた政策は、徐々に軌道に乗り始めている





「最上と桜庭組」


「・・・はい、無事です」


「最上はどうした? 失格になって逃げたか?」


「います。勝手に決めつけないでください」


「声がしないから泣いて家に帰ったのかと思ったよ」


どっと笑い声が沸き起こり、先生の言葉で俺はみんなの笑いものにされた。

先生はうけ狙いだったかもしれないが、無神経な親父ギャグは思春期の心を傷つけるにはじゅうぶんだった。

先生が言った家に帰ったという言葉の裏には、俺が寮に入らず家から通っているという嫌味が含まれている。



俺には魔石も評価もどうだっていい。

それよりも、早く家に帰って自分が見つけたダンジョンで畑仕事がしたい。

そろそろトウモロコシを収穫しなくちゃいけないんだ。



------------------------------------------------------------------------------------------------


「面白かったよ!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と、思ってくださったら


フォローをぜひお願いします。


また、応援する♥をクリックしていただけるととても励みになります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る