第111話 目を覚まさせてあげるわ (ジュリア談)
秘密のダンジョン大捕物帳 ジュリア視点のエピソードです。
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ダンジョン第5層界北部開発、工事現場事務所。
わたしは事務所の外階段を上り、ドアの前に立っているボディーガードに挨拶をした。
「ジュリアよ。エバンスと会うことになっているの」
「武器の持ち込みはないかボディーチェックします」
「失礼ね。レディの体に触れるなんて。女性のボディーガードはいないの?」
「あいにく……」
何考えてるの、このボディーガードは。
わたしはドアの向こうに声をかけた。
「エバンス、居るんでしょう? わたしを通してちょうだい」
事務所の中から「お入り」と声がして、ボディーガードは渋々ドアを開けた。
現場事務所の中は意外に広く、デスクの上には、設計図などのいろんな書類が重ねられている。
エバンスは眠そうに目をこすりながら、書類に目を通していた。
無理もない。
ここ第5層界は不思議なことに日本時間にあった太陽の動きをしている。
日本時間の朝9時はロンドンでは夜中の1時になる。
エバンスの眠い時間にわざと合わせて、わたしはアポイントを取ったのだ。
「ハーイ、エバンス」
エバンスは書類から顔をあげた。
「いらっしゃい。珍しいこともあるもんだ。君から訪ねてくるなんて」
「ええ、ちょっと相談があって」
「ところで、外で待機している黒いジープの男たちはどなたかな」
「え?」
いつから見られていたのかしら。
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「わたしのボディーガードよ。
あなたのところに来るのに、生身の体では怖くて」
「ハハハ、わたしは生身の体で大歓迎するがね」
きっしょ! このスケベジジイ。
警察は、わたしが部屋に入ってから3分後に突入する段取りになっている。
もう少しだけ、たぶらかしてやるか。
「ねえ、わたしも家を建てたの。
まさかわたしの家が開発計画に入っているってことはないわよね」
「うぅむ、どうしようかな。君次第で計画から外してもいいがね」
「あら、どういう意味かしら。
このダンジョンを教えただけじゃ、まだご満足できないの?
サービスが足りないのかしら? ご不満の様子ね、欲張りさん。」
エバンスが座っている椅子に近づき、デスクの上に腰かけて足を組んだ。
「あなたにわざわざ会いにきたのに、眠そうにしているなんてつまらないわ」
わたしは、エバンスの顔の真っ正面に自分の顔を寄せて囁いた。
「さてと、目を覚まさせてあげるわ。ミスター・エバンス」
外階段を上って来る音がする。
とっさにエバンスの耳を両手で塞ぎ、音が聞こえないようにしてから、唇を寄せるふりをする。
もうすぐで唇が触れるかどうかの瞬間だった。
「警察だ!
これからダンジョン第5層界北部開発、工事現場事務所の家宅捜索、
及び密輸船の捜索差し押さえをする。
エバンス、金塊密輸の容疑だ」
現場事務所の扉を開け、巡査部長と3名の警察官が乗り込んできた。
巡査部長はエバンスに警察手帳と捜索差押許可状を指し示した。
やだ、ちょっとカッコいいじゃない!
少年が言ってたことは本当だったのね。
警察官の一人は捜索に入ったことを待機場所の本部に連絡している。
あ、こっちの子も好み♡
「何だ? 目が覚めた! はっきり目が覚めたぞ、ジュリア。
わたしをハメたつもりか」
「目が覚めてよかったわ、エバンス。
事前予告して捜査差し押さえするバカがどこにいるのよ」
「拒否する。
わたしの事務所に許可なく押し入り、捜査することは許さん」
「残念ですがエバンスさん、
捜索差押えを拒否することはできません。
捜索差押えには強制力があります」
「暴力などで抵抗した場合、公務執行妨害罪が成立するかもよ。
およしなさい、エバンス」
「船は、船は場所が違うだろ。
この令状では捜査差し押さえはできないはずだ」
エバンスは余裕の笑みを見せた。
「ご心配なく。小型貨物船の捜索差押許可状はこちらになります」
「二枚もあるのか、バカな!
わたしは任意同行しないぞ。弁護士を呼んでくれ」
「悪いな、二枚じゃないんだ。三枚目もある。三枚目の令状が出ていて……」
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