第110話 秘密のダンジョン大捕物帳―2
「
そう海上保安庁は主張してきた。
そこでボートは御積島ではなく、秋田港に転移石を設置して第5層界とつなぐことになった。
第5層界の砂浜の沖からボートを出して、座礁船近くで逮捕状が出る瞬間まで待機するのだ。
エバンス本人かその仲間が海で妨害行為をする可能性があるので、
逮捕権のある海上保安庁の協力で、密輸品押収の段取りは進んだ。
押収した密輸品は、そこから陸自と海上保安庁の協力で陸上で待機しているトラックに積み込むという計画。
陸上では、警察が待機する。
これは、大掛かりな捕物帳だ。
あと残る問題は、エバンスに令状を表示するタイミングだ。
捜索差押状を執行する際には、令状を対象者に示さなければならない。
つまり、エバンス本人に令状を示さないとならないのだ。
これには、ジュリアが協力を申し出てくれた。
「OK、わたしがエバンスを第5層界に呼び出すわ。
わたしもせっかく建てた家の近くの山を崩されちゃって、
頭にきていたところなの。
で? 少年もわたしと一緒に来るんでしょ?」
「俺は警察官じゃないんで……それは警察官の仕事です」
「なあんだ、一緒に来ないの?
いいじゃないの、警察官と一緒につっ立ってれば」
「俺は、海で船に乗り込む役目があるから行けないです。ごめんなさい」
「そう、じゃあ、代わりにわたしからの希望は聞いてもらえるのかしら?」
ジュリアはとんでもない希望を提示してきた。
「一緒に来る警察官はイケメンなんでしょうね。そこんとこ、重要よ」
「はい、そこはできるだけ希望に沿うように……」
「できるだけって、それじゃダメ! 絶対よ」
「はい、絶対、必ず、選りすぐりのイケメン警察官を複数名で行かせます」
*
ついに捜索差押許可状、俗称「ガサ状」が発布された。
ジュリアの要望を父さんに伝えていたにもかかわらず、
ダンジョン入り口に現れたのはちょっと冴えないおじさん警察巡査部長だった。
連れの警察官のほうがまだ若くてなんとかなりそうなレベル。
「これじゃダメです! せめて、眉毛を整えてください。
それから、お腹に力を入れて引っ込めてください!」
「何を失礼な。子供の遊びじゃないんだよ、君」
「俺だって遊んでるつもりはありません。
あなたの顔のせいで容疑者を取り逃がすかもしれないんですよ。
それでもいいんですか?」
父さんは、警察官の気分を害しないように静かに注意した。
「巡査部長、大変失礼とは存じますが、
あなたの容姿にすべてがかかっていると言っても過言ではありません。
ここでホシに逃げられたら、
あなたの警察官人生に汚点がつくかもしれませんね。
よろしいのですか?」
「そんなに重要なこと? なのか。」
「桜庭あずさ君、ユズリハ君、この方の眉を剃ってメイクしてくれ」
「はい、お父様」
現場に待機していた桜庭とユズリハが、令状を持っている巡査部長を押さえつけてメイクしはじめた。
「おじさま、ごめんあそばせ。
今どきのイケメンに仕上げてさしあげます。
もしかしたらカメラに映るかもしれないでしょ」
ユズリハは配信にきれいに映るナチュラルメイクが得意だった。
イケメンとまでは行かなくても10歳は若くなった巡査部長と警察官たち。
そのメイク完了を確認してから、俺とハヤブサ、そして陸自の佐山さんと潜水士は、ダンジョン内部に入って行った。
「最上君、ご武運を」
桜庭……前にも言ったがそれはやめろって。
どうせ君も第5層界に来るんだろ。
来るなと止めたって来るに決まっている。
狩野はどうしていたかというと。
彼は陸上自衛隊と一緒にトラックに乗り込んでいた。
トラックに乗り込んだ自衛隊は転移石で囲った待機場所から、ダンジョンへと転移した。
*
ダンジョン第5層界の待機場所に着くと、ジュリアが愛馬マロンに乗って待っていた。
「お待たせしました。ジュリア。
こちらの警察の方々とご一緒にお願いします」
「ん? これがイケメン警察官なの?」
「今、原宿界隈ではこの手の顔がモテモテなんです。
流行のモテ男は、この手のタイプなんですよ」
「本当に?」
「マジで本当。
この人の写真集が竹下通りで売れ筋だって知らなかった?
それに、この人が女性誌の表紙になると、売り上げが十倍伸びるという……」
「ふうーん、後ろに立っている警察官たちのほうが私好みだけど。
まあ、いいわ。少年が言うなら信じるわ。さ、この馬に乗って」
「わたくしどもはジープで向かいますから結構です」
「あ、そう」
ごめんよ、ジュリア。
これも任務遂行のためだ。
嘘も方便。
「少年、わたしを騙せたと思って安心してるでしょ」
「そ、そんなことは……、あります」
ジュリアにはかなわない。
全てお見通しだった。
「まあいいわ。少年のその努力に免じて、イケメン警察官だと思って任務遂行するわ」
あーざす!!
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