第109話 秘密のダンジョン大捕物帳

 寒風山かんぷうざんで俺を狙ったスナイパーが逮捕されたことにより、密輸船の金塊は犯罪性があるとして、警察が動く大捜索になった。


そして、捜索差押許可状を裁判官から取り付けるまで、秘密裡に準備は進んだ。


田沢湖高原のダンジョン入り口を自衛隊が整備していた。

もちろん規制線を張り、関係者以外は通行止めだ。


何のための整備工事かというと、大掛かりな転送システムを作っていたのだ。

ダンジョン入り口側と、第5層界側とに待機所を作り、両方の待機所を転移石でつなぐ。

これで、ダンジョン内にトラック車両を持ち込める。

このやり方は、北部でキャンピングカーに暮らす高齢探索者から教わった。



 数日前。

陸上運用支援課の隊員佐山さんと俺は、一緒に第5層界に来た。

北部のノマドキャンパーたちに接触を試みるためだ。

予想はしていたが、最初は警戒して口もきいてもらえなかった。

だが、俺が空から包帯を落とした者だと名乗ると快く受け入れてくれた。


「あんたかね、ドラゴンに乗って白い包帯を落とした少年は」


「あのときは、すみませんでした。驚かせちゃって」


「いやぁ、助かったんだよ。

あの時、ちょうど怪我人が出てね。

医療道具がなかったから困っていたんだ。

ありがとうって手を振ったのに行っちまうからさ、感謝を伝えられなかった。

俺はコロニーのリーダーでウィリアムという。ビリーと呼んでくれ」


「私は自衛隊員の佐山です」


「俺は最上といいますが、ダンジョン探索者名でハチ王子とも呼ばれてます。

どっちでもいいです。呼びやすい方で呼んでください」


「ハチ王子? 名前は知っているよ。

最近、日本でランキング1位になったレベル999だろ。

あっは! 俺はなんて運がいいんだ。

ハチ王子から包帯をもらっていたなんて!」


いや、包帯をあげたのではなく、うっかり落としただけです。

と、正直に言おうとしたが、あまりにも喜ばれたから言えなかった。


そこから、ビリーは自分たちの事を話し始めた。

彼らはエバンスが言っていた通り、仕事が出来なくなった高齢探索者だった。

みな、アメリカの路上でキャンピングカーに乗りながら、あちこち漂流して暮らしていたが、

このダンジョンを見つけて、車ごと転移してきたのだという。


「ここでは、小さなコロニーを作って、皆好きなことをして暮らしている。

少年だから教えるんだが、地上に行くときは待機所まで行って、

転移石の魔力で車ごと地上に戻るんだよ。

だが、どうしてそんなことを知りたいんだね。

自衛隊員まで一緒にくるなんて何か事情がありそうだな」


俺は、エバンスによる北部開発について話をした。


「ああ、そうだ。

どこから来たやつか知らないが、あの男が来てから周辺の山を切り崩し、

川の水も濁らせている。

そう、エバンスと名乗っていたな。

俺たちを雇用する場を作ると言って挨拶に来たよ。

だが、自然破壊することは俺たちの生活信条に反する」


その開発を止めるために、日本政府が秘密裡に動いていることも伝えた。

自衛隊員の佐山さんも、実は自分も探索者であることを明かすと、


「そう言うことなら、早く言ってくれ。

他にも俺たちに出来ることはないかね。協力したい」


「待機所をつくることを教えてくれただけで、十分なんですが、

あとちょっとだけいいですか?」


「何でも言ってくれ」


「みなさん、集会で歌とか歌います?」


「ああ、よくやるよ。

ギターを弾ける者、歌が上手い者、ダンスがうまい者、

料理が得意な者、それから……」


「あの、ここまでわかれば十分です。

みなさん、配信しませんか? 

世界中にこのダンジョン第5層界のすばらしさを発信しましょう。

そして、ここを開発という名のもとに破壊する行為を止めるように訴えませんか?」


「それだけでいいのか?」


「あともうひとつだけ。

俺も一緒に配信に加わっていいですか?」


「何をいう。大歓迎に決まっているだろ」



 そういうわけで、

ビリーが教えてくれた通りに、ダンジョンの陸上に車両が移動できる待機所を作った。


一方で、海の座礁した小型貨物船に行く方法には問題があった。


御積島おしゃくじまダンジョンから第5層界の海に移動するのは、海流が早くて危険すぎる」


そう海上保安庁は主張してきた。


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