第108話 作戦会議―2
しかし、金塊を没収するには、いろんな手続きがあって時間がかかりそうだ。
その間にエバンスは消費税を払って取り戻そうとするだろう。
法的な手続きなどの難しい問題は、父さんに任せておこう。
俺は、何としてでもダンジョン北部の開発を止めたい。
資金源を断つ以外の方法はないか。
それも、いますぐ行動出来て、効果があるやつ。
「エバンスを法的にどうするかは、最上室長にお任せします。
原点に戻りましょう。
そもそも、エバンスによるダンジョン北部開発が、最上君行方不明事件の発端です。
わたしに、提案させてください」
ハヤブサは、父さんから俺の方に向き直して、話を続けた。
「ダンジョン第5層界を多くの人に知ってもらおう。
ちょうど住民も増えてきたことだし、
あそこに家を持っているのは最上君だけじゃない」
「忍、家って何のことだね」
「ああ、俺が自分で建てた小屋がダンジョンにあるんだ。
知らなかった? 爺ちゃんから話を聞いているかと思っていた」
「父さんは聞いていないぞ」
ハヤブサが間に入って、父さんの関心を別のほうへとずらす。
「実は、いいものがあるんです。
最上君が、ダンジョン第5層界でドラゴンに乗って上空から中継した動画が残っているんです。
配信するつもりじゃなくて、間違って配信したのですが、あの配信はもの凄い反響があったんです。
その後、間違って配信したものだから非公開にしました。
ところが、リスナーさんたちからもう一度見たいと要望が今も止まらないんですよ。
最上君、あの動画を公開してもいいかい?」
「もう、身バレしちゃってるし、公開してもいいです」
本当は俺も見たかったんだよな。
あの動画は非公開になったので、俺も見たことがなかった。
どんなコメントが寄せられているのかも知らない。
コメントはハヤブサしか読んでいないのだ。
「開発を止める方法をいろいろ考えました。
クラウドファンディングや、チャリティーコンサートで資金を集めてから開発反対運動をしようかとも思いました。
けれども、ダンジョン探索者がやることは配信でしょ。
幸いあの第5層界は、ハブ空港のような存在で、いろんな国からの探索者がいる。
第5層界で各探索者が配信したら、おもしろいことが起こりますよ」
「ダンジョン第5層界が世界中に配信されるというのか」
「そうです。第5層界の素晴らしいところを、全世界に配信するんです」
「それじゃ、もう俺の秘密のダンジョンじゃなくなるんだね」
「もうなくなっているよ」
ハヤブサにそう言われて、
俺はエバンスに言われた言葉を思い出した。
『最上忍くん、
君の理想通りにダンジョンを快適化しようなんてのは、傲慢というんだよ』
その通りだった。
「第5層界にいる探索者が配信で、
『自然を破壊する開発はやめよう』と、生の声を伝えるんだ。
特に、ランク1位レベル
「すみません。俺、配信器材持ってないんで」
「君が配信する必要はない。
今まで通り、それぞれの配信者のチャンネルにゲスト出演すればいい。
その方が、世界中に拡散しやすい」
あ、そうか。
俺の配信なんて誰も見ないか。
「北部に集まっているという高齢の探索者たちだって、
ギター弾いたり、歌をうたったりできる人、
大工仕事が得意な人、畑仕事が得意な人、
いろんな得意を配信すればいいんだ。
配信器材がなければ、誰かに配信してもらう。
それぞれ、自分の得意なことを披露しながら、第5層界を紹介するだけだ。
それだけで世論を動かすことが出来る」
なんだか面白そうだな。
「ハヤブサ君、忍をよろしくお願いします。
エバンスから忍を守ってほしい。
これは室長の命令じゃない、単なる親バカの頼みだ」
「お互い力を尽くしましょう」
俺は、二人を見て感心していた。
頭がいい人ってかっこいいなぁ。
俺もこんな大人になりたい。
「最上君、言っとくけど、他人事じゃないからな。
君が主役なんだぞ。しっかりしてくれ」
あれ、読まれてます?
「ハヤブサ君、忍にバンバン言ってくれ。ちっとはまともになるように…」
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