第20話 魔狼の森
比較的安全だと思っていたダンジョンで悲劇は起きた。
姫は首に深手を負ったカリノに包帯を巻き、ポーションを飲ませている。
そして、カリノを襲った狼は森の方へと逃げこんだ。
「王子、魔狼を追うな。森に入るのは危険すぎる。
これ以上、けが人を出すわけにはいかない。
悔しいがここで引き返そう」
「まだ始まったばかりですよ」
「魔物には始まったばかりも何も関係ない。
深入りせずに引き返したほうがいい」
「俺、普段は聞き分けのいいほうなんだけど、
今日は聞き分けのない子になっていいですか?
俺の友達に傷をつけたお礼は、
きっちり熨斗(のし)つけてお返しさせていただきます」
カリノが笑う。
「バーカ、お前、任侠(にんきょう)かよ。
ハヤブサさん、こいつ止めても無駄ですよ。
僕も回復したら後から追いつきますから、
魔物を倒してください」
「カリノ………、俺は任侠(にんきょう)じゃない、カタギだ」
「おい待て、このダンジョンに誘ったのはわたしだ。
君たちを守る責任がわたしにはある」
「お兄ちゃん………お願い、もが………王子を守って」
「もちろんだ、安心しなさい。お兄ちゃんは王子を守るよ。
姫にはカリノを頼むからね」
*
俺は森の中を猛スピードで駆けて行く。
ハヤブサも遅れないように付いてくる。
同時に、ドローンもハヤブサと俺を捕えて配信は続いていた。
(もしかして、これは魔物を追っているの)
(ハチ公、足が速くね?)
(ハチ公、走るの速っ! それに追いついているハヤブサも凄い)
(ハヤブサさん、気を付けてください)
(ハチ公じゃない、ハチ王子だ)
(謎の秋田犬キャラww、面白いことになってきたw)
魔狼の遠吠えが聞こえた。
奴はいる、この森の奥だ。
今の遠吠えに答えるように別の方向からも遠吠えがした。
仲間がいるのか。
また、遠吠えだ。今度は西の方角から。
三匹もいるのか。
こっちは二人、敵は三匹。
数では狼の方が勝っている。
もしも、群れで来られたら勝ち目はない。
さあ、どうする。
ハヤブサが提案した。
「わたしが二匹相手にするから、王子は一匹を攻撃しろ」
「だめです。奴らは群れで襲ってきます」
「わたしにダメ出しする気か?」
ハヤブサは一瞬怒った顔を見せたが、俺は気にせずに自分の考えを伝える。
「魔狼がオオカミと同じ習性なら、手口は見えています。
森に逃げ込んだように見せて、実は人間を疲れさせるため、わざと走らせた。
その罠に真っ先に引っかかったのは、この俺。
奴らの獲物は俺ひとり。
一匹が獲物の前に回り込み、他の二頭が獲物を追い込んでくる。
これがオオカミの狩りの仕方です。
つまり、罠に引っかかった獲物、俺にむかって三匹で襲ってくるんです」
「なら、どうする」
「大事なのは一撃で倒す事。一匹を一撃で素早く、しとめる」
山にこもってダンジョン探索している俺の経験上、動物の習性を読むのは得意だ。
魔狼といってもオオカミなら習性は同じだろう。
「魔物になると、オオカミでも夜行性じゃないんですね」
「王子、危ない!」
ハヤブサが叫んで危険を知らせてくれる。
しかし、狼が飛び出してくる方向はだいたい予想がついていた。
やっぱりな。
獲物の中で狙われた一人は、俺だった。
俺は、一心不乱に狼に向かって駆け出していく。
駆けだしながら、ぐっと姿勢を低く落として、一匹の魔狼の体の下に滑り込む。
魔狼はすぐさま回避しようと上へ跳躍する。
やはり、動物の反射神経はあなどれない。
俺の不意打ちは失敗したかのように見えた。
「王子、逃げろ!」
上に跳躍した魔狼の四つの脚が視界に入る。
俺の狙いは四つのうちのどれでもない。
上空へ遠くなる魔狼を捕えようと伸ばした手は、狙い通りのモノをつかみ取った。
モフモフの尻尾だ。
「うりゃぁ! 背負い投げぇーーー!!!!」
魔狼の巨体は、弧を描いていとも簡単に投げ飛ばされ、岩に頭から落下する。
巨体であるがゆえに大きな遠心力となった一撃は、魔狼の頭部にショックを与えるには十分だった。
「一匹目、終了」
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