第21話 ボス討伐、素手で

「一匹目、終了」


すぐに二匹目が俺に飛び掛かってくる。


「やばっ、意外と早い」


軽く跳んで、かわす。

横には、今倒したばかりの魔狼が白目をむいて横たわっていた。

一匹倒したら二匹目も同じだ。


今度は、地面を蹴って俺が上空へ跳躍する。

かわされた先にある一匹目の倒れた巨体が邪魔をして、二匹目は踵を返すことができない。


「もらった」


俺は自分の落下地点を二匹目の頭頂部に狙いを定める。

踵が狙い通りの頭頂部に勢いよく落ちたタイミングで、思いっきり踏みつぶす。


ぐしゃ。


魔狼は先に倒れていた一匹目の上に、仲良く崩れ落ちた。


「二匹目」


安全な地面に着地したとおもいきや、息つく暇もなく三匹目の咆哮が耳をつんざく。


「お怒りのご様子で」


三匹目は猛スピードで距離を詰めてきて、気が付いた時には、俺は魔狼になぎ倒されていた。

こいつが、獲物を待っていたボスの魔狼か。

ここで待ち構えていたボスは、体力を消耗していない。

そして、巨体の脚は、俺を押さえつけて離さない。

大きな口から鋭い牙が俺を狙う。


「歯並びがいいですね」


俺が必死に手で魔狼の顔を押し戻そうとしても、まるでびくともしない。

徐々に、鋭い牙は俺の頭を噛み砕こうと接近してくる。


「くっ…………」


「王子、わたしが光線を出すから、その瞬間に離れろ」


「待って………策がある」


全身の筋肉を使って渾身の力を振り絞り、

魔狼の大きく開いた口をめがけて会心の一撃をぶちこんだ。


ズボッ、ゴキッ


鈍い音がして、咽の奥で何かを破壊した。

魔狼は顎が閉まらなくなったまま、ドーンと地面に倒れて動かなくなった。


「ボス討伐完了」



ハヤブサはあっけにとられて何も言えないで立っていたが、ふと我に返って配信用ドローンに向かって話しかけた。


「みなさん、ご覧になりましたか? これが王子です」



(なんじゃ、あれは・・・武器持ってなかったよな)

(おいおい、素手で巨大な魔狼三匹倒したぞ)

(アイテムボックスに何か武器を持っていたでしょうに)

(なんでアイテムボックスを開かない)

(いや、そんなの開いている暇がなかったぞ)

(前もって、開いていればよかったのに………)

(ハヤブサはハチ公は未成年って言ってたじゃん)

(武器使えないのか)



「すごいぞ王子。コメントがものすごい勢いで大量に流れて読めないくらいだ」


「ふぅん、そんなもんですか。興味なくてすみません」


そのとき、カリノと姫が遅れて走って来た。


「ごめん、回復に時間がかかった。あ、れ? 

………もしかして終わったの?」


カリノが目にした光景は、

三匹の倒れた魔狼と、配信のアクセス数に狂喜乱舞しているハヤブサ。

そして、ひと仕事終わって汗を拭いている俺だった。


三匹の魔狼の姿が霧のようにもやってから消えると、そこには三つの魔石が転がっていた。

ハヤブサは魔石を拾いカメラに向かって、リスナーに見せていた。


「お、同時アクセス数10万ってなってる。

みんな見てくれて本当にありがとう。

今日のゲスト王子のおかげで、こうして魔石もゲットできました。

今日の配信はここでおしまいです。

また見に来てください。さよならー」


配信を切るとハヤブサはこっちに向き直って言った。


「はい、これは君がゲットした魔石だよ」


「え? いいです。ハヤブサさん、持っていてください。

ハヤブサさんの配信だったんですから」


「そうはいかない。君のおかげでアクセス数も登録者数も伸びたんだ。

タダ働きってわけにはいかないでしょう」


「ダメです。俺は受け取れません」


すると、狩野が控えめに提案を出してきた。


「あのう、ちょうど三個なら、桜庭兄妹、最上、僕で分ければいいんじゃない?」


「狩野くんは負傷しただけ………だよね」


「あら、どうしてわたしは、お兄ちゃんとワンセットなの? 別にいいけど」


桜庭兄妹が、狩野の提案に異を唱える。

報酬の山分けとか、こういう面倒くさいことが俺は嫌いだ。

さっさと結論を出してほしい。

畑を見に帰りたいから、強引に俺は話をまとめる。


「桜庭が別にいいけどって言うのなら、それでいいんじゃない?」


「ま、あずさが言うならお兄ちゃんもそれでかまわないよ」


「じゃ、そういうことで。

俺はもうあがります。お疲れ様でしたー」


「おーい、最上。待ってくれよ、ぼくも帰るよ」


森の中まで来た道を急いで戻る。

ステイタス画面を確認しながら、走っていると通知音が鳴った。


『スペシャルミッション、クリアしました。おめでとうございます。

ステイタスポイント、ヒットポイント、ゴールド、全て2倍です』


よっしゃ!

おれは傷だらけの右手で小さくガッツポーズをしながら家路を急いだ。


畑、畑、は・た・け~! 



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