第22話 バズったらしい

 気のせいかもしれないが……

登校すると、皆の視線が俺に集中しているような気がする。


俺、何か悪いことしたっけ。


昇降口の下足棚に靴を突っ込む。

まさか、上履きに何か、いたずらされているんじゃないだろうな。

上履きをひっくり返して、中に何か入れられていないか確認する。

大丈夫だ、何もない。


それでも、周りからの視線が気になる。

指さしてひそひそ話している生徒もいる。


俺、いったい何をやらかしたんだ。


狩野が首に包帯を巻いた姿で登校してきた。

昨日、魔狼に噛まれて怪我を負ったが、桜庭に手当をしてもらって治りは早かったようだ。


「おはよう、狩野。大丈夫か?」


「僕にあまり話しかけない方がいいぞ」


「え、俺嫌われた? 昨日さっさと帰ったことを怒ってるのか?」


「違う」


「じゃ、あれか。お前の携帯を盗み見したことか?」


「携帯を盗み見したのかよ!」


違うのか。まずいことを言った。

俺は今、墓穴を掘ってしまった。

言わなければよかった……


「ちょっと、こっち来い」


狩野は俺の腕を引っ張って、誰もいない理科室に連れて入った。

え? まさか、告白?

ごめんなさい。

俺にも選ぶ権利があるので、男からの告白はちょっと……


「いいか、よく聞け」


「え、あの、その、一応聞くけど、ごめんなさい!

告白されてもお前の気持ちに答えられない」


「何、勘違いしてんだ。違うよ。

昨日の配信がかなりバズって、お前身バレしたかもしれないって話だよ」


あれ、想像していたのと違う。

それは告白ではなく忠告だった。


「は?」


「ハヤブサ・チャンネルのリスナーは多いから、

この学校でも見た生徒は多い。

僕は顔出しでカリノと呼ばれてるし、

身バレは当然想定してたからいいけど。

お前、秋田犬のアバターでハチ公とか、

ハチ王子とか呼ばれてバズってるぞ。

ハヤブサさんと校庭で戦った件を知っているやつは、

ハチ王子は最上じゃないかと噂している。

一緒にいた僕と仲がいいのも、ハチ王子と疑われる要因になっているし」


「嘘だろ。アバターは意味なかったってことか」


「少なくとも、この学校ではね」


「ま、この学校ならしょうがないかな。

バレてしまったもんは今さら隠しても無駄だしな」


「いいのかよ。あきらめ早っ」


「だって、配信はもうあれで終わりだ。

もう俺は出ないから、そのうちみんな忘れるさ」


「配信に出ないのか? こんなに話題になっているのに」


「出ない。興味ない」


「でも、配信というミッションがきたらどうする」


「うーん、悩むなぁ。その時はその時に考える」


すると、ガラッと理科室の戸を開けて五十嵐先生が入って来た。


「こら! こんなところで何をしている。

さっさと教室に行け。朝礼が始まるぞ」


「はーい、すみませーん!」




 なるほど、教室に入るとクラスの視線は俺と狩野に集中している。

なぜハヤブサ・チャンネルに出たくらいで注目されるのかわからない。

みんなが持っているような炎とか水とか氷とか、見栄えのするスキルを持っていないし、自慢するような技もない。

狼は倒したが、あれは動物の本能を知っていたからにすぎない。

みんな、盛り上がりすぎだ。


「連絡事項だ。明日の演習は野営訓練を行う。

ダンジョン探索は、経験の浅いうちは第4層以上進まない事。

なぜだかわかるか。最上。……最上、聞いているか」


「はい、聞いています」


また名指しで注意された。


「聞いていたなら、答えなさい。

何故、第4層以上進んではいけないのか」


「さあ…………わかりません」


「あきれたやつだ。基本中の基本だろが」


おっしゃる通り、俺は基本がわからない。

いつも秘密のダンジョンで自己流で探索しているから。


「第4層以上進むと、日帰りできない可能性がある。

万が一、日帰りが不可能になった場合は、野営しなければならない。

だから、経験が浅い初心者は、第4層以上進んではいけない」


はて?

先生はそう説明したが、俺にはそれが疑問だ。

俺がいつも籠っているダンジョンでは、転移の石がボタンのように埋め込まれて、エレベーターのように簡単に移動できるのだが。

先生の言っているのは、昔のダンジョンなのだろうか。


「わかったか、最上」


「はあ、なんとなく」


「なんとなくではダメだ。

ちゃんとわかるように演習ではきっちり指導するからな」


嫌だな、また俺だけきっちりしごくからなと聞こえる。

指導という名のしごきを受けるのは勘弁願いたい。


まあ、いつも行くダンジョンで確認するのが一番いいだろう。




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