第23話 第5層界でスローライフ

 学校から家に帰っても、先生が言っていた第4層以上はダメという意味を自分で確認したくてたまらない。

いつもの秘密ダンジョンへ行ってみることにした。


確かに第4層までは、トラップがあったり魔物が出たりして大変といえば大変だ。

だが、この秘密ダンジョンの最初の方はもう何度もクリアしているから、あっという間に終わる。


そして、第5層界は比較的平和な世界が広がっている。

ここに俺は小屋を建てたり、温泉を掘ったりして、スローライフを楽しんでいる。

ここに来るまでだって転移の石を使えば、余裕で日帰りできる。

この先の第6、第7、第8、第9層にも、転移の石があるのは確認できている。

確かに楽にクリアできる層ではなくなるが、日帰りは可能だ。


たとえば、第9階層でミッションクリアしたとする。

そのあとで、第5層界でのんびり過ごすのがお決まりのコースだ。

それでも、余裕で日帰りしている。


 そういえば、第5層界に収穫して多すぎて持ち帰れなかったトウモロコシがあるはずだ。

昨日はそのトウモロコシを小屋の前に並べ、“一個10ゴールド”と書いた札を立てておいた。

冗談半分で無人販売所を作っておいたんだ。

俺しかいない世界なんだけど。


小屋の前に来ると、トウモロコシが一本無くなっていた。

代わりに10ゴールドコインが一個おいてある。


嘘だろ。

誰かいるのか。


俺はあたりを見回して確認する。

小屋の反対側も足音を忍ばせながら歩いていると、誰かの気配を感じる。


すると、どこからかのんきな鼻歌が聞こえてきた。

誰かいる!!

俺はアイテムボックスを開いて、こん棒を取り出し、鼻歌の聞こえてくる方向へ向かった。


温泉に誰かが入っている。


「誰だ、うちの温泉に入っているのは!」


こん棒を振り上げてそいつの背後に迫った。


「うわぁ!」


「うわぁぁぁ! びっくりした。待って、待って、殴らないで僕だよ、狩野だよ」


「なんだ、狩野か。こんなところで何してるんだ」


「ごめんよ。勝手に入ってきちゃって。ごめんなさい!」


「トウモロコシにお金払ったのもお前か?」


「ああ、そうだ。僕だよ」


「いいけどさ。勝手に入ってくるなよ。驚くじゃん」


「すまん、服、着てもいい?」


狩野は秘密のダンジョンの第5層界まで勝手に入って来た。

ダンジョンへの道も、ダンジョン内の転移装置も、彼には一回しか見せていないのに。

もう覚えたとは、凄い記憶力の持ち主だ。


「だってさ、一個10ゴールドって書いてあったじゃん。

誰かに買ってもらいたくて書いたんだろ?」


「冗談のつもりで書いた。

本当に買うやつがいるとは思ってなかった」


「自己完結型の冗談か。最上らしいな」


無断で敷地内に入って来たくせに、家主をバカにするとはいい根性だ。


俺は周辺にある枯れ枝を拾いながら、狩野が来たのが嬉しくてニヤニヤしていた。


「ニヤニヤしながら何してんだよ」


「生でトウモロコシは食べられないだろ、焼きトウモロコシ食べてみないか」


「いいね! 僕も手伝うよ。しまった、醤油持ってくればよかった」


そうだ、調味料のことを考えていなかった。

ま、いっか。


狩野は二つの石をポケットから出して俺に渡した。


「何これ?」


不思議がる俺に


「いつか何かの役にたつだろ。今日のお礼だ」


狩野はトウモロコシを焼くことに夢中になりながら、笑っていた。


こいつが言うなら本当に役に立つ石なんだろう。




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