第24話 野営訓練

 迷宮探索高等専門学校から貸し切りバスで田沢湖スポーツセンターに到着。

ここは田沢湖高原温泉郷にあり、一般客以外に学校研修や合宿などに利用される。

 

学校から近いとは言っても、バス移動するだけで自然環境に恵まれた施設に来たのだから、クラスのみんなは、ちょっとした遠足気分でウキウキしている。

俺からしたら、田沢湖高原温泉郷は爺ちゃんのペンションがあるから、庭みたいなものだ。

遠足気分というより、家に帰って来た気分だ。



「本日の演習は野営訓練だ。楽しいキャンプと勘違いしているやつがいるが、

野営とキャンプの違いは何か、答えられるものはいるか」


五十嵐先生が、クラス全員に問を投げかける。


「狩野、答えてみろ」


「はい、キャンプはキャンプ場で楽しくするものですが、

野営は、野営は……自衛隊の訓練というイメージしか………」


「惜しい。半分くらいは当たっている。

桜庭、答えてみろ」


「はい、キャンプはキャンプ場を管理している人がいて安全が保たれます。

野営は、キャンプ場以外で、自分で安全と快適を確保しなければなりません」


「正解だ。では、今回の野営演習について説明する。よく聞くように。

演習はグループごとに指定された場所にテントを張る。

協力し合ってテントを張ったら、

野営に必要なテント内の装備まで忘れないように設定する。

本来はトイレも穴を掘るなどして、自分たちで作らなければならないが、

施設側との取り決めで、トイレは近くのトイレを使用すること。

野営設営エリアは、保健衛生上トイレがある場所を、各グループごとに指定してある。

それから、次の注意事項だ。

昼食は今日持参したおにぎり2個、

夕食はそこで煮炊きはできないため、

テント設営が終了したらスポーツセンターに戻ってきて報告し、夕食とする。

スポーツセンターで一泊した翌日の内容を説明する。

二日目は、野営テントの解体と周りの清掃。

野営した痕跡を残さないようにするまでが演習だ。以上。

なにか、質問はあるか」


俺はさっぱりわからない。

みんなはわかっているのか、優秀なクラスだ。


「班長に、行動計画書を書いた紙を渡すから、よく読んでおくように」


ふぅん、班長が計画書を持っているんだな。

じゃあ、そいつを頼りに動けば大丈夫だ。



グループは二班に分かれる。

一班は、ラグビー場横。

二班は、サッカー場横。


「決して競技場内の芝生を傷つけたり、競技場内にテントを設置しないように」


二学年は10名しかいないから、5人ずつの二班に分かれるということか。


一班は、狩野を入れて男子が3、女子が2の5名。

二班は、男子が3,女子は桜庭一人の4名。


あれ? 二班は4名しかしないが……おかしくないか。

俺がグループに入ってない。


「最上は、特別メニューだ。水沢ルートを通ってムーミン谷」


ムーミン谷……って?


こんなファンタジックなネーミングされた場所が、実際に秋田駒ケ岳にはある。

話は聞いたことあるが、俺は行ったことはない。

他のみんなはスポーツセンターの敷地内なのに、俺だけガチで登山じゃないか。


「ムーミン谷ってファンタジーな場所ね、素敵」


桜庭が俺に小声で話しかけてきた。

狩野だけは心配そうに言ってくた。


「最上だけ本格的に野営登山じゃん。

水沢ルートって、熊が出るような険しい獣道だよ。大丈夫か?」


「熊なら、どこでも出るさ。なんなら、ここにだって出るからな」


他の男子は俺だけ特別メニューを言い渡されたことを気にしてないかな。

いつものことだからな。


「最上、水沢ルートだって。あいつ死ぬな」


祝福どうもありがとう。


「では、演習の指令を出す。

六月三日、14時までに各班ごとに、指定された地点を攻略せよ」


みんなは、野営の道具を担いで、指定されたエリアへと向かった。


俺も支給されたテントや道具を渡されたが、突っ立ったまま戸惑っていた。


俺は、水沢ルートってどこからスタートするのかさえ知らない。

先生に聞きたいところだけど、無駄だろう。

自分で調べる始める時点で、すでにみんなから遅れを取っている。

俺はスマホを取り出した。


「スマホでGPS使っても、登山口はなかなか見つけられないぞ」


はぁ?!




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