第38話 東京校3年人気配信者

 下校チャイムが鳴り、俺と狩野は教室を出た。


「小松先生ってさ、先日最上とダン技研にいったときにいた人だよな」


「ああ、そうだね」


「研究員でも、臨時講師するんだ」


「上司から言われれば出向もするんだろ」


「上司っていうのは、そのつまり…」


「父さんの差し金だ」


「え?」


「インテリで痩せてて弱そうに見えるし、俺を守るとか不安でしかない」


「何言ってるんだよ。五十嵐先生はおそらくもう来ないだろう。

お前を脅かすような教師はもういないじゃないか」


「だといいんだけど」


「最上が心配するなんてめずらしいな。お前らしくないぞ」


「……俺さ、謎のスキルが発動しちゃったみたいなんだ。

環境依存っていうんだけど」


「環境依存? 文字化けか」


「狩野、お前よく知っているな。

さすが、知らないことは狩野に聞け、だな」


「文字化けというと、最近話題になってるよな。

ランキング急上昇中探索者が文字化けしてるって話。

あれもどうかと思うよね。名前を伏せる意味ないじゃんね。

どうせみんなハンドルネームなんだから」


俺は反応に困った。

なんて説明すればわかってくれるのだろう。

登録用紙に本名書いて、文字化けしてるアホな探索者とは、実は俺ですと言えない。


「あれ? どうした最上。急におとなしくなっちゃって。

ん? 環境依存って、お前の謎のスキルって話だっけ。

あの文字化け探索者って、まさか…」


「そのまさかだ。ダン技研にはIDで俺だとバレてしまったんだが。

それで、父さんは心配になって小松先生を送り込んだんだ」


「そういう話の流れなのか。

ってか、お前ランクインしたの、凄くね?」




 そんな話をしながら校門近くまで来ると、

この学校の制服を着た男女が立って、校門から出てくる生徒の顔を一人一人見て確認していた。


「なんじゃあれ。同じ制服着てるけど見かけない顔だな」


「さっそく俺を拉致しにきたとか」


「それはないだろ。高専の制服着てるから生徒だろ」


同じ制服の女の子のほうが、狩野を見つけて駆け寄って来た。


「きゃーーー!やっと見つけたわ。あなた、カリノさんね。

高専2年のカリノさんでしょ」


いきなりハイテンションの美少女に手を握られて、真っ赤になっている狩野を観察するのはおもしろい。

あの狩野が、まるでペットショップで出会った子犬のようにかわいく見える。


「わたし、迷宮探索高専東京校の3年、ユズリハですぅ」


狩野が頬を赤く染めて美少女を見つめ、彼女が誰なのか気が付いた。


「ユズリハさん? あの配信アイドルのユズリハさんですか? 

どうしてこんなところに、…ってか、手を放してください。

あ、いや、離さないで……」


どっちだよ、狩野、テンパってるぞ。


「あなたを探してここまで来たのよ。会いたかったわ」


会いたかった? 狩野にか? この子犬みたいな狩野に?


「ハヤブサ・チャンネル見ました。すごいアクセス数でしたよね」


「あ、俺のチャンネルじゃなくて、

ハヤブサ・チャンネル…ですか。

どおりで。僕にそんな人気があるわけないし」


美少女ユズリハと一緒に立っていた男の方は、俺に近づいてきた。


「カリノ君の隣にいるのは、お友達かしら?」


え? 姿も声も男性だけど話し言葉は女? どっちだ。

別に俺は性的マイノリティを否定はしない。

人間は人それぞれだから。

でも、何か油断ならない空気を感じる。




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