第39話 東京校3年人気配信者―2

 何か油断ならない空気を感じる。


「友達じゃありません。じゃ、俺はこれで帰りますんで」


帰ろうとした俺の肩をグイっと握られ、止められた。


「嘘おっしゃい。その声、聞き覚えあるわ。そのイケボ。

あなたハチ王子でしょ」


ハヤブサ・チャンネルの配信と、

ハヤブサさんとの決闘動画がSNSで拡散されてから、

校内で身バレするのはある程度しかたがないとあきらめていた。

だが、東京校にまで身バレするとは考えていなかった。


「あ、僕の友達に手を出さないでください」


バカ狩野、余計なことを言うな。


「ほら、カリノ君が友達だって言ってるわよ。

やっぱり、あなたがハチ王子じゃないの。逃げないでくださる?

あなたに用事があってわざわざ東北分校まで来たんですから」


「あの、どちらさまで」


「あ、失礼。あたくし、東京校3年のブロッケンよ。

一緒についてきた女子は同級生。よろしくね」


「アイドル系探索配信者、ユズリハです。よ・ろ・し・く!」


ユズリハは両手でハートマークを作ってウィンクする。


「ヤバい。ユズリハさんの配信の決めポーズだ。

くそ可愛い! 最上、わかるかこの愛らしさが」


「いや全然」


愛らしいのはお前だ、狩野。


どうやら、本当に東京校の生徒のようだ。

俺を拉致しに来たのではないらしい。

そうだとしても、小松先生は何しているんだ? 

校門で見ず知らずの人たちに、俺はつかまっているのに。

俺を守ってくれるんじゃなかったのか。


「おーい、そこの生徒。早く帰りなさい」


 小松先生だ。

やっと来た。

この人たちを追い払いにきてくれた。


「おや、東京校のブロッケンとユズリハじゃないですか。

こんなところまで来て探索ですか。ご苦労さん」


「へ? 小松先生、この人たちを知ってるの?」


「ブロッケンとユズリハと言ったら、高専のスーパースターだよ。

彼女…たち?のステイタスを、ダン技研研究員なら知っていて当然です。

ああ、そう、そう、ブロッケン残念だったね。

先週トップ10から落ちちゃって。

君なら頑張ればまた上がれますよ。期待してますからね」


小松先生、追い払わないで世間話ですか。


「そうなのよ! キーーーー!!!

あの謎の文字化けヤロウのせいで! 忌々しいったらありゃしない!」


ブロッケンは悔しがってハンカチを噛んでいる。

この人、トップ10から落ちたんだ。

俺のせいで。


というか、小松先生はこのブロッケンという人をトップ10から落としたのは、俺だということ知っていますよね。

もしかして、煽ってます?


「言っとくが、校内で揉め事を起こさないように。

特に、ブロッケン。

武器の使用は校内禁止ですから」


ブロッケンはすでに18歳で武器の使用が認められていた。

狩野が羨望のまなざしで東京校3年生を見つめている。


「いいなぁ、武器が使えるんだ。

ユズリハさんも武器を使えるんですか?」


ユズリハはむっとして、そっぽを向いて機嫌を損ねる。


「わたしは卒業まで武器は使えないの。3月生まれだから」


「悪いこと聞いちゃいました。すみません」


「先生はこれから会議だから、職員室に戻ります。

学校同士の交流は、和やかにやってくださいね。じゃ」


小松先生が職員室へ向かうのを確認してから、ブロッケンは本題へと切り出した。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか。

あたくしがここに来たのは、ずばり! 

ハチ王子と争いたいからですわ」


狩野はそれを聞いて、ハヤブサとの決闘を連想した。


「ハチ王子は、決闘はしないと思いますよ。」


俺も同調する。


「奴は、決闘は嫌いだと思います」


と、俺はなお第三者のふりして帰ろうとした。


「ふっ、おバカねあなた。声でとっくに身バレしてますわよ。

それに、何か勘違いしているみたいですから言いますけど、

争いって決闘ではありませんから。

ダンジョンである物を先に取った方が勝ちというゲームですわ」


ゲーム? 運動会でもするのか。

『ある物を先に見つけて取った方が勝ち』

それを聞いて狩野も俺と同じことを連想したらしい。


「それって、なんだか運動会の買い物競争みたいっすね」


「あははは! カリノさんって、面白いこと言うわね。

こういうのわたし嫌いじゃないわ」


「そ、そうですか。ユズリハさんに喜んでもらえて光栄です」


また赤くなって照れている狩野よ、デレている場合じゃない。

この二人組、特にブロッケンからは俺に対する敵意を感じる。





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