第77話 女子の激戦区かよー2

 馬の蹄の音はマロンだった。


そして、マロンに乗ったジュリアが俺に向かって手を振って来た。


「少年、また来てしまったわ。やっぱり君の住環境は快適だね。

あら、頭どうしたん?」


狩野は初めてジュリアを見て、そのまま動けなくなっている。


「きれいな人……だなぁ。最上はこんなきれいな女性と知り合いに?」


「おー、少年の友達? ロサンゼルスからきたジュリアよ。

よろしく。 あれぇ? なんだか今日は人が多いわねー。パーティーかなにか?」


「あ、仲間と一緒に楽しく過ごそうっていうか、

仲間を泊める部屋がなかったからというか……」


「いいわね。わたしも参加したい!

いいでしょ? マロンを厩につないだら手伝うわ。

畑でもなんでも…ん? むこうにハヤブサに似てる人が。

ハヤブサが一緒に居るの?

なんでよ、少年、わたしをハヤブサに紹介しなさいよ」


ジュリアは急いで馬から降り厩につなぎながら言った。

ハヤブサは海外でも人気の配信者だ。

ハヤブサは畑からトマトを採って、ちょうど桜庭に渡そうとしているところだった。

桜庭は、ジュリアの声に気が付いて振り向きこっちを見た。


「な! なんで、あんたまで来るのよ」


「は? あんたまでって何よ。までって。ほかにもいるの?」


桜庭は、玄関階段に腰かけているユズリハがいる方を、クイッと顎で教えた。

ジュリアは誰にでも気軽に声をかける。

オープンな性格だ。


「ハーイ、そこで暇そうにしている少女。はじめまして!

あなたもこっち来なさいよ」

あ、女子の激戦区になってしまう。

なんとかしなくては……、そうだハヤブサさんにジュリアを紹介するんだった。


「あ、ハヤブサさーん、この人ジュリアさんっていいます。」


「そうだったわ、少年よ、よく思い出した。

ハーイ、ジュリアです。

ロサンゼルスから来ました。少年には馬の事でお世話になっています」


こんな美女が挨拶しているのに、ハヤブサはきわめてクールだ。


「ああ、エバンスから話は聞いています。あなたがジュリアさん」


「あらぁ、エバンスから話は聞いているってどんな話かしら。

悪い噂じゃなきゃいいけど」


「この場所をきれいなご婦人に教えてもらったと」


「きれいかどうかはエバンスの主観ね。で? どうなのよ」


「どうって」


「実際に会ってみて、どうなのよ」


「まぁ、普通より、やや上」


「ちょっと、言ってくれるわね。初対面でそれ?」


「君が聞いたから答えただけです。

わたしがお世辞を言う時は、怒っている時だから気を付けた方がいい」


俺はジュリアの手を取って後ろを向かせ、小声でアドバイスした。


「ハヤブサさんにとって、

妹の桜庭あずさ以外はみんな普通なんだよ。悪気はないんだ」


「妹のあずさ? ハヤブサの妹だったの? あずさって」


「妹をいじめたら激怒するから気を付けて」


「やだ、シスコン……なの?」


「しっ!」


ハヤブサは桜庭に取れたての野菜を渡して、何か話している。

次に、狩野がハヤブサに呼び出されている。


「狩野君は狩野って名前だから狩ができるんだろうな」


「ハヤブサさん、つまらないジョークはよしてくださいよ。

ストレートに狩に出ようと言ってくれればいいのに」


「そうだな。じゃ、ジュリアさんはあずさを手伝ってくれ。

最上君は休んでいろ」


あと一人、誰もかまってくれない子がいるんですけど。

俺は、階段でずっとふてくされているユズリハに近づいた。


「どうした?」


「別に」


「アイドル系の顔が台無しだぞ」


「……こんなに、ライバルがいるなんて」


「ライバル?」


「何でもないわ」


「よく来てくれたね。ありがとうユズリハ」


「……うん」


俺のその一言ですべてが報われたように、ユズリハは頬を赤く染めていた。



しかし、安静にしているってのは、暇だなあ。


などと言っていられる余裕は、実は無かった。

ハヤブサと狩野が出かけた今、俺は女子の激戦区に取り残されたことに気が付いてしまった。

頼む、早く帰って来て。


「最上君、ちょっとー」

「少年、こっちに来てくれる?」

「ハチ王子、手伝ってー」


三者三様の呼び方をしているが、これはどれも俺を呼んでいるのだ。



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