第78話 キャンプファイアー

 狭い。


俺が作った小屋……そうコテージなんて立派なものではない。

俺を入れた6人が、この小さな小屋で夕食を食べようと集まったのだから狭いのは当然だ。

そこで、ハヤブサは立ち上がって提案した。


「全員、外に出よう。キャンプファイアーだ」


「ハヤブサさん、それナイスですね。僕がテーブル運びましょうか」


ハヤブサの提案に喜んでテーブル運びをすると手をあげた狩野だったが、


「いや、その必要はない。キャンプ用折りたたみ式テーブルを持ってきた」


ハヤブサは最初からダンジョンに来ることを想定していたのか、準備がいい。


「さすがっすね。じゃ、僕は火をおこします」


狩野は火をおこす準備を始め、ハヤブサはテーブルを出す。

俺だって夕食を運ぶぐらいできるぞと、鍋を持ったらジュリアに断られた。


「まだ重いもの持ったりしちゃだめだよ。少年は、食器運びにしな」


「まるで病人扱いだな」


「けが人だし、似たようなものよ」


ここはおとなしく素直な良い子になろう。

さっきまでの女子のバトルに俺はまったくついていけなかった。

男子というのは、女子の尻に敷かれるくらいで丁度いいのだと、高校生にして早くも悟った。



空が暗くなる直前、黄昏時の空に一番星が輝いていた。

汁物を入れたボウルから、カツオだしの麺つゆの香りが昇る。

かけ蕎麦だ。

ハヤブサが花巻から持ってきたわんこそばが夕食に出された。

俺の家族用と、第5層界用に大量に買い占めてきたという。


「いいんですか、こんなにいただいちゃっても」


「実はね、ここにそば畑を作ろうと思ったんだよ。

最上君は米を作りたいと思っているかもしれないけど、

この土地で水田は難しそうだからね。

でも、君は日本食を食べたいだろ? 

蕎麦ならやせた土地でも栽培できるぞ」


「へぇ、いいですね。

でもソバの実なんてどうやって手に入れるんですか」


「わたしが、花巻の知り合いからもらってきた」


準備万端じゃないか。

何から何まで、先読みして行動している。


「お兄ちゃん、話はそれくらいにしてよ。

お腹すいちゃったわ」


「ごめん、ごめん。早く食べようね、あずさ」


妹のツッコミだけは、先読みできないようだ。


「では、みなさんでいただきましょう。

家主の最上君、号令を頼む」


「家主? 俺が?」


「少年、早くして。お腹ぺこぺこだわ」


「は、はい、では……いただきます!」


いただきます!

全員で割りばしを持って、蕎麦をすすった。

畑のキュウリは浅漬けに、トマトはサラダに、カボチャは煮つけに。

そして、狩野が狩った獲物は……


「狩野、狩りに行ったんだよな。獲物はどこだ?」


「獲物はこれだ」


クーラーボックスから出てきたのは、鮎だった。


「あれ? 釣りに変更したのか」


「ハヤブサさんが、和食にするから川へ行こうって」


「バーベキューは次の機会にしようと、わたしが言った。不満かな」


「いいえ、これがいい。俺はこれで嬉しいです」


狩野はキャンプファイアーに鮎の串刺しを、次々に立てていた。

何匹釣ったのだろう。


「自然保護のため、人数分しか取ってないから安心しろ」


狩野の日焼けした顔が、キャンプファーに照らされて笑っていた。


「美味しいわ。いいだしが出てる。

あずさって料理できるのね。意外だわ」


「ユズリハったら、意外って何よ。

わたしは最上君のお母さまから料理を教えていただいてるの」


「何それ、自慢? 

バイト先がハチ王子の家だからって、可愛くなーい」


「自慢じゃないわ。事実を言っただけ」


バチバチが始まった。

話題を変えさせようと、俺は提案した。


「せっかく、みんなで集まったのだから楽しい話をしないか」


「楽しい話? 何それ。恋バナとか」


狩野、お前、空気を読め。


「いいじゃん、面白そう」


ジュリアまで!


「わたしは恋バナに興味はない。そんなことよりも・・・」


さすが、ハヤブサかっけー!



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