第116話 ハヤブサパーティ全員集合

 「そろそろ、ジュリアの配信場所に移動しないと……」


俺はハヤブサに言われた通りに任務を遂行しなければならない。

それは、それぞれの配信チャンネルに顔を出すという任務だ。


「あら、こんなにいい話をここで聞けたのに、もう移動するの?

わたしのリスナーさんたちだって、納得しないわよ。

ねえ、みんな。もっとハチ王子にいて欲しいわよね」


ユズリハ・チャンネルのコメント欄が物凄い速さで流れて行く。

目で追って読むことができないくらいだ。


「ね? 移動することないわよ」


「だって……」


「だって、何よ」


「配信チャンネルをいろいろと回れと……」


「いいことを教えてあげるわ。

あそこでパンケーキを焼いているおばさん見えるかしら。

その横に立っているのって、ジュリアじゃない?」


ユズリハが指さしたほうに視線を向けると、彼女の言った通りだった。

ジュリアがノマド・キャンパーからパンケーキの焼き方を教わっている所だった。

俺はジュリアのところまで歩いて声をかけた。


「何やってるんですか。こんなところで」


「ハーイ、少年。それはわたしのセリフよ。

待てど暮らせど、工事現場事務所に来ないもんだから、

わたしの方から来ちゃった。

どうせ、ユズリハに行かないでとか引き留められてたんじゃないの?」


「失礼ね、ジュリア。

ここではとても貴重なインタビューができたのよ。

だから、ハチ王子は移動できなかったんだから」


「ユズリハが彼らにインタビューですって?」


ジュリアはロサンゼルスから来ているから、ノマド・キャンパーたちが地上でどんな生活をしているかよく知っているのだろう。

彼女は一瞬だけ眉をよせた。


そこに、ノマド・キャンパーのおばさんがジュリアに言った。


「ほらほら、パンケーキの表面がプツプツしてきたら

ひっくり返すのよ。

無駄話していたらパンケーキが焦げちゃうでしょ」


ジュリアは言われるままにパンケーキをひっくり返した。

ちょっと歪だが、きれいな焼き色がついている。


「わぁ、出来た、出来たわ。面白ーい」


「あなた筋がいいわね。上手よ」


「おばさん、今度は粉の配合のしかたも教えてよ」


「アニーよ。アニーと呼んで」


「アニー、レシピ教えてね。メモに残しておきたいの」


「ええ、いいわよ。もう片方側もきれいに焼けたらね」


なんだ、俺のことなんかもうどうでもよくなっているじゃないか。


「アニー、わたしのリスナーさんに向かって手を振って。

こっちのカメラよ。


リスナーの皆さん、

ここでは、料理が得意な人から料理を教えてもらうことができます。

OK、みんながリクエストが多ければ、

わたしのチャンネルから

アニーのクッキング番組を配信しようかしら。

どう? ノマド・キャンパーたちって、本当に優しい人たちだわ。

皆さんも経験と知識が豊富な彼らから、いろいろ学べたらきっと面白いと思うわ」


ジュリアは俺がいなくても、リスナーにここの素晴らしさを伝えるのが上手だ。

何も心配いらないな。


「ハチ王子、またあなたを探しに来た人がいるわ」


 再びユズリハが教えてくれた先に、今度は桜庭兄妹が立っていた。

フリーマーケットを開いている場所に立って、周りをウロウロ見回している。

やばい、俺を探しているのかも。

俺はこの兄妹が喧嘩している間にそっと抜けてここに移動してきたからな。

みつかったら、さぞ怒られるだろう。


「見つけた! ハチ王子、

勝手にいるなんてひどいじゃないの!」


来た! 桜庭の咆哮が響き渡る。

妹の咆哮は気にも留めずに、ハヤブサはカメラに向かって話し始めた。


「ええっと、リスナーの皆さん、見えますか? 

ハチ王子はここにいました。

すみませんでした。

着替えに行ったっきり、姿が見えなくなってしまって。

今インタビューしますね」


焦って俺を追ってきたのだろう。

ハヤブサがしきりにカメラに向かって謝っている。


「ハチ王子、海での活動お疲れさまでした。

ハヤブサ・チャンネルをご覧の皆さんに一言お願いします」


「ハヤブサ・チャンネルを見てくれている皆さん、

こんにちは。

これが俺です。アバターなしです。


えっと、ダンジョン第5層界の様子なんだけど、

ハヤブサ・チャンネルをずっと見てくれている方は、空からの映像も見てくれているから、

ここの大自然の素晴らしさは皆さんご存じの通り。

俺の下手な説明聞きたくないよね。


それに、俺がここで百の言葉を語るよりも、

実際ここに住んでいるノマド・キャンパーたちの話を

聞いた方が、ここの良さがもっと伝わります。

しばらく、ここの様子をご覧になって、それぞれに感じ取ってもらいたいです」


俺の下手な挨拶が終わると、

ハヤブサはドローンを操作して、ノマド・コロニーの全景を撮影し一周させた。


太陽は傾きはじめて、空はオレンジ色に染まりつつあった。





「おーい、最上ぃ! いるかぁー? 僕だ、狩野だ。

ちょっと、重い物を運んで来たんで手伝ってくれー」


狩野が向こうの丘から手を振っている。

あいつ、どこに行ってたんだ。

狩野に呼ばれて俺は、丘まで走った。

なにやら、思い器材を抱えて来ている。


「どこへ行ってたんだよ、狩野。

自衛隊と一緒に地上へ帰ってしまったのかと思っていたよ」


「いやいやいやいや、そんなわけないじゃん。

これから暗くなるからさ、配信するには照明機材が要るだろ。

これを調達してきたんだよ」


「お前、これは……」


「工事現場で夜間に使う照明だよ。工事現場のことなら狩野建設の息子に任せろっての」


「え、これをわざわざ仙台から持ってきたの?」


「んなわけないじゃん」


「じゃ、工事現場と言ったら……」


「工事現場といったら?」


二人で同時に言う。


「エバンスの北部開発工事現場!!」


「やばくないか? 盗んできたのか」


「違うよ。僕はお前とは違う。ちゃんとお借りしますって言ったよ」


「なんだよ、違うって。こころよく貸してくれたのか?」


「なんか、エバンスが逮捕されちゃって現場は混乱してた。

僕はお借りしますって言ったけど、聞こえていたかは知らない」


「それ、借りたって言えるのか? それじゃ俺と同じじゃないか」


「大丈夫、ちゃんと明日には返しに行くから。

さ、設置だ。設置。手伝えよ」


狩野、お前ってやつは………ある意味、最強だ。


照明を狩野と設置しようとしていると、ノマド・キャンパーのおじさんたちが手伝ってくれた。


「電源はどうする」


「そうかと思って、これも借りてきたよ」


狩野はアイテムボックスから、ポータブル発電機を取り出した。


「なんだ、じゃあ、この照明機材も、最初からアイテムボックスに入れて運べばよかったんじゃね?」


「あ、そうか。それは考えなかった」


やっぱり訂正。

狩野、お前ってやつは・・・・ある意味、最強だが、一本抜けている。




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