第52話 快適化計画の協力者
「んだば、ダンジョンさ運ぶべ。
それにしても、こんなにいっぺぇの荷物、忍一人で運ぶのは大変だな。
悪いけども、爺ちゃんはダンジョンなんておっかねぇ所に行けない」
「うん、友達を呼んでるから大丈夫」
すると、ペンション白鷺に、いつも野菜をくれる親戚のおじさんの軽トラがやって来た。
「おはようさん。忍に頼まれて高専の寮から友達を乗せて来たどー!」
「おはえんし、おらの忍がそんなことを頼んで迷惑かげだんし」
「何ともねえ。連れで来たのは、友達だけじゃねぇで。
荷台に野菜の苗が積んである。
ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、カボチャ、キュウリ、トマト。
こんなもんでいいか?」
軽トラからの窓から狩野が顔を出す。
「おはようございまーす。毎度、狩野運送でーす」
「おはよう、お前の言うジョークは相変わらずしょうもない」
「なんだ冗談か。爺ちゃんはてっきり、
本当に狩野君は運送会社やってるかと思ったで。
アハハ、おもしれぇわらしだなぁ」
お爺ちゃんは狩野のジョークにウケて笑ってくれたからいいようなものの、そうじゃなかったら寒い風が通り抜けるところだった。
おじさんの軽トラから降りようとする狩野を俺は止めた。
「あ、狩野、降りないで」
「え、つまらない冗談を言ったから罰ゲーム?」
「そうじゃないよ。このまま軽トラ二台でダンジョンに向かった方が効率的じゃん」
「なんだ、そいうことか。最上に嫌われたかと思った」
10分後、二台の軽トラでダンジョン前に到着すると、荷物を降ろしてもらい、爺ちゃんとおじさんはペンションへと戻って行った。
ダンジョンの第5層界まで、荷物を運ぶのに何回か往復して、すでに俺と狩野は汗だくになってしまった。
最後に一番大きい自動販売機が残っている。
狩野がタオルで汗を拭きながら言う。
「この自動販売機をどうやって第5層界まで運ぼうか。
かなり重いぞ。僕とお前だけでいけるかな」
「え、こんなの俺一人で十分だよ」
「よせよ最上、腰を痛めるぞ」
「そうかな、平気だよ。
俺がキツくなったら、手を貸してくれ」
「今はそれでもいいけどさ。
運び終わったら、今度は現地で設置作業とかしなきゃいけないだろ。
他に誰か助っ人を呼ぼうよ」
「助っ人って言ったって、このダンジョンに潜れるやつが他にいるか?」
「いる。ハヤブサさんを呼ぼう」
「ハヤブサさんかぁ、いつも仕事が忙しそうにしてる。来るかな?」
「ハヤブサさんなら、ペンション白鷺の場所を知っているし、
近くまで来れそうじゃん」
そう言いながら、狩野は既に妹の桜庭へ携帯電話をかけている。
狩野でも、さすがにハヤブサの電話番号は知らないらしい。
「もしもし、桜庭? 狩野だけど、
ちょっと話したいんだけど今大丈夫?
・・・・じゃ、ちょっと最上に代わるね」
いきなり代わるのかよ。
もうちょっと前置きしてくれよ。
狩野から無理やり渡された携帯を受け取って、電話に出た。
「ああ、俺だけど。ちょっと助けが欲しいんだ。いいかな」
「最上君がわたしに助けを求めてくるなんて珍しいわね。
嬉しい!最上君のためなら喜んで…」
「あ、あの勘違いしているようだから、はじめに言っとくけど
ハヤブサさんに助けてほしいんだ」
「は? わたしじゃなくてお兄ちゃん? さあ、どうかしらねぇ。
お兄ちゃんは最近機嫌が悪いから来てくれるかしら」
「機嫌が悪い? 仕事が忙しいのかな」
「最上君がユズリハ・チャンネルにハチ王子で出演したことを怒っているみたいで」
「え、なんで? 俺が原因?」
「ハチ王子はお兄ちゃんのパーティなのにって言ってる」
「だって、あれは君がマネージャーになって出演許可したんじゃないか」
「それはわかってるわ。
だからわたしがマネジメントしたとお兄ちゃんに謝ったんだけど。
そしたら……」
「そしたら?」
「『いつの間にマネージャーになったの?
そんな大変な仕事をあずさ一人に負わせない。
これからは、お兄ちゃんもマネージャーになるからね』って」
「はあ」
そうだった。
ハヤブサは生粋のシスコンだ。
「じゃあしかたがないかぁ。わかった。俺と狩野でやるから」
「ちょっ、待って! 助けが欲しいなら内容だけでも教えて……」
「じゃ、またな」
俺は電話を切って狩野に返した。
「さてと、自動販売機を運んだら、休憩しよう」
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