第53話 快適化計画の協力者―2
***
秘密のダンジョンを見つけたのはちょうど一年前だった。
迷宮探索高等専門学校 東北分校に入学してまだ三か月半。
ダンジョン探索について習い始めの一学期を終え、初めての夏休みをここ田沢湖高原で過ごしていた。
たいていの生徒は親元を離れて寮生活しているので、夏休みに入るとそれぞれの実家へ帰省する。
俺の場合、実家は東京だが、母さんの実家がこのペンションだ。
そこで、俺ではなく母さんがこっちに帰省してきた。
繁忙期を迎えたペンション白鷺は猫の手を借りたいほど忙しい。
オーナーである爺ちゃんと婆ちゃんのお手伝いをする日々を俺と母さんは過ごしていた。
母さんが客室清掃をしている間、俺はお客さまを連れて観光案内係。
ある日、観光案内中にひとつの洞穴を見つけた。
熊の寝床かもしれない。
お客様も俺も熊鈴を身につけていたが、
安全のためその場から離れて別ルートでペンションに戻った。
そんな出来事があった日の翌日。
夜が明けてペンションの手伝いに追われる前に、
あの洞窟が気になって一人で朝早くペンションを出発した。
それが秘密のダンジョン発見の第一歩であり、俺の自己流探索の始まりだった。
***
秘密のダンジョン第5層界。
俺がコンポストトイレを制作していると携帯電話が鳴った。
ピコピコピコ! ピコピコピコ!
「はい。爺ちゃん、どうしたの?
え?友達が訪ねて来た……二人も!?
うん……うん、わかった。今から向かう」
二人の友達と言ったら、桜庭兄妹しか思いつかない。
爺ちゃんはてっきり手伝いに来てくれたものだと勘違いして、
二人をダンジョン入り口まで連れて行くからと言っている。
爺ちゃん、違うんだ。
お手伝いに来てくれたんじゃなくて、たぶん怒りに来たんだ。
電話を切ると狩野が聞いてきた。
「どうしたぁ? 最上、何かあったんか」
「桜庭とハヤブサさんが来たみたいだ。
爺ちゃんがダンジョン入口まで連れてくるから、
俺、迎えに行ってくる」
「やった! 助っ人参上か」
「残念だけど違うと思う。
俺がユズリハ・チャンネルに出演して、
ハヤブサさんは怒っているらしいから」
「そんな…マジか。
ぼ、僕はここで材木を採集してるから…、
うまく謝っておいて」
「な、何? お前も同罪だろが」
「どうか、最上さまお願いします。
ここで馬車馬のごとく働きますんで」
ったく、都合のいいやつだ。
だけどそこが憎めなくて好きなんだが。
10分後、ダンジョン出入り口待っていると、爺ちゃんの軽トラが桜庭兄弟を乗せてやってきた。
ハヤブサが荷台から颯爽と下りてくる。
相変わらずかっこいい。
でも、軽トラの荷台に人を乗せるのはダメなはず。
警察に見つかったら捕まるんじゃない?
「最上君、どういうことだね」
やっぱり、ハヤブサはお怒りのご様子だ。
「妹が『電話をいきなり切られた』と泣きながら連絡してきたんだが、
どういうことなんだ!」
あ、そっち?
「忍、友達がまた来てくれて、えがったなぁ。爺ちゃんは嬉しいよ」
爺ちゃんの言葉に、ハヤブサは急ににこやかな笑顔になって応える。
「ご親切にどうもありがとうございます」
そして、俺の方を向くと厳しい表情に急変する。
「ったく、それに君のお爺ちゃんが何か勘違いしちゃって、
ここまで連れてこられたんだぞ」
わかってます、手伝いにきてくれたんじゃないのは。
そりゃそうだよね。
爺ちゃんは嬉しそうにしながら、荷台から大きな風呂敷包みを取り出し手渡してくれた。
「これは婆ちゃんから差し入れだ。
ランチボックス持ってきたからみんなで食べなさい。
じゃ、お爺ちゃんは戻るがらな。
何かあったら電話せな」
「本当に、何から何まですみませーん。ありがとうございましたぁ」
さわやかな笑顔で爺ちゃんに手を振るハヤブサ。
しかし、こっちを向くと冷たい目線で俺を睨んだ。
この人、やっぱり怖い。
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