第54話 最上の館
俺は怯えて動けなかった。
ハヤブサに狙われたヒヨドリのように。
「あずさを泣かせたんだって? やってくれたね最上君。
あずさとの電話をガチャ切りしたっていうじゃないか」
「電話、ガチャ切りしましたっけ?
そんなつもりはなかった……」
「君にそんなつもりはなかったとしても、
現にあずさはガチャ切りされたと泣いていたんだ。
妹を泣かせるやつは許せん!」
すると、桜庭あずさがハヤブサの背中をツンツンとつついて注意する。
「お兄ちゃん、もういいわ。
最上君がそんなつもりじゃなかったのならそうなんでしょう。
わたしの勘違いだったのよ。だからもうそんな怖い顔して責めないで」
「お兄ちゃんはそんなに怖い顔してないよ」
「しているわ。最上君が怯えているじゃない」
ヒヨドリを助けてくれ、桜庭。
妹にたしなめられて、ハヤブサはヒヨドリを射止めることをあきらめ、普段の表情に戻った。
「すまなかった、最上君。
それはそうとして、君のお爺ちゃんに来てくれてありがとうと
やたら感謝されてここに連れてこられたんだが、何の話だ」
「来てくださってうれしいです。
ここは、誰にも知られていないダンジョンの入口なんです」
「秘密のダンジョン?」
ハヤブサを、俺はダンジョンの洞窟に入るように促した。
奥にある転移石まで案内し、そこから第5層界まで移動した。
荒野が広がる第5層界を初めて見たハヤブサは目を丸くした。
「おい、この第5層界と言うのは‥‥一体何」
「一年前に俺が見つけて、ひとりで開拓しました。
あそこに小屋が見えるでしょう。
あの小屋では狩野が、今ソーラーパネルを取り付けています。
ここをもっと快適な空間にしようと今取り組んでいるところなんです」
「快適空間だと? ダンジョンを? 魔物はいないのか?」
「たまに上空をドラゴンが飛びますが、別に人間に危害は加えません。
あのドラゴンも何かに利用できるといいのになぁ」
「ドラゴンを利用だと?」
「そうだなぁ、この世界の移動タクシーがあったら便利だと思いませんか」
「しかし、ここにいる人間って君と狩野君だけなんだろう?
タクシー料金を払う人がどこにいるんだ」
「ここに」
と、俺はハヤブサを指さす。
「おい、わたしからお金を取る気か」
「冗談です。
この第5階層は他のダンジョンとも繋がっています。
先日、ムーミン谷のダンジョンから、転移石でここに移動しました」
「君が落ちていたあの穴のことかい?
あそこはダンジョンで、ここに繋がっていたと…」
「そうです。ということは、他のダンジョンとも繋がっている可能性があるんですよ。
俺たちのほかにもここに来る人が増えると考えられませんか?」
「そうかもしれないが…」
「素敵! ここは空気が美味しいわ。わたしここが気に入っちゃったお兄ちゃん」
「そうだね!お兄ちゃんもだ」
桜庭が気に入ってくれると、もれなくハヤブサが付いて来る。
桜庭兄妹を連れて行くと、
小屋で作業していた狩野が、遠くから俺たちを見つけ叫んでいる。
「まことに申し訳ございませんでしたぁ!!」
狩野はハヤブサに向かって深々と頭を下げた。
「何の事だい? そんなにわたしは恐れられているのか…」
普段は優しいハヤブサだが、怒ると恐いのは兄妹同じだということに本人は気が付いていない。
俺は桜庭兄妹に小屋と畑と厩、そして畑を案内した。
敷地を一通り案内すると、桜庭あずさはとても第5層界がお気に召したようで
何か手伝いたいと積極的に参加してくれた。
こうなれば、もれなくついて来るハヤブサは、さまざまなアイディアを出し提案してくる。
「井戸水が水質検査で飲めるとわかったのなら、溜めて置ける桶が要るな。
狩野君、適当な材木を見繕ってくれ。魔法で桶を作ろう」
「魔法…使っちゃっていいんですか?」
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