第18話 女神山ダンジョン

 ハヤブサが忍たちと配信する場所は、

よく行き慣れた岩手県和賀郡に決められた。

秋田県との県境にある女神山ダンジョンである。


「今回はゲストとして、三人を紹介するのがメインで、

討伐で成果を出すことが目的ではない。

安全重視でこのダンジョンに決めた。」


と、ハヤブサは言っている。

よくよく考えると、この四人の中で武器を使えるのはハヤブサ一人だけ。

俺たちは、未成年のため武器の使用が認められていないのだ。

行き慣れたダンジョンでないと、高専の生徒を連れての探索は危険だ。


「狩野君は、ハンドルネームはあるかい」


「僕はいつもカリノってカタカナ表記で配信してます」


「芸がないな」


狩野は芸がないと言われて、不機嫌な表情で言い返す。


「じゃあ、ハヤブサさんは本名をなんていうんですか?」


「桜庭隼人(さくらば はやと)だ」


「へえ、さすがっすね。隼人からハヤブサってひねってますね」


「お前、バカにしてんだろ」


「そんなことないです。マジで感心してます。

でも、初配信の桜庭あずさと最上はどうするんです?

ハヤブサさんのセンスでネーミングしてあげるんですか?」


俺はハンドルネームなどどうでもいい。

さっさとこの配信を終わらせて、ミッションクリアしたら、秘密のダンジョンで

トウモロコシを収穫しなくちゃいけない。

爺ちゃんに持ってくるって約束したから。


「あずさは、わたしのかわいい姫だから、姫にする」


「お兄ちゃん、安直ね。適当につけてるでしょ」


「そんなことないよ。どこからどう見ても、あずさはかわいいお姫様だからだよ」


「じゃあ、最上君は何にするの? 約束通りにアバターもつけてあげてね」


「ああ、もちろん、アバターのことを忘れてないさ。

AIが顔認識するアバターって、あまり種類がなくて選べないんだけど、

これでいいだろう」


ハヤブサはスマホのカメラを俺に向けて、AIに顔を認識させてアバターを選択している。


「あずさが姫だから、最上君のハンドルネームは王子でいいね。

最上君、聞いてる? ハンドルネームだけど………」


「あ、適当でいいです。

アバターもつけて顔バレNGにしてもらえれば、別になんでも」


早く終わらないかな。

トウモロコシの収穫が遅くなる。


「えっと、配信中はハンドルネームで呼ぶこと。

これは常識だから、知っているとは思うが、

慣れないとつい本名で呼んでしまうから気を付けろ」


「狩野はカタカナのカリノだから、音声では同じじゃないか」


「そうだな、最上君の言う通りだ」


「はい、お兄ちゃんブブーです。

呼び方気をつけてって自分で言ったくせに」


「ああ、ごめん、ごめん、王子の言う通り。でいいのかな、姫」


「あのう、ハヤブサさん、

姫がハヤブサさんをお兄ちゃんって呼ぶのはOKなんですか?」


「カリノ、そこは勘弁してくれ。

姫はわたしをお兄ちゃんと呼ぶ。特例だ」


「ふうん、そんなものですか。

わかったか、王子。

王子、王子・・・お前だよ最上!」


「あ、ああ、わかった。わかったよ狩野」


「今、お前漢字で呼んだろ」


「え? なんでわかるの、漢字だって」


 姫とか王子とか、俺はうまく使い分けられるのだろうか。





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