第12話 シスコン桜庭ハヤブサ

「何年生だ」


 放課後、帰ろうとすると校門の前に立ちふさがって、そこを通ろうとする男子生徒ひとりひとりに学年を尋ねている青年がいる。


何だあれは、若い男子を狙う変質者か。

嫌だな。関わりたくない。

校門を通らずに敷地外に出る方法はないかな、と考えながら歩いているうちに校門まで来てしまった。


「何年生だ」


「・・・・・・・・」


「おい、お前。何年生だ」


「・・・・・・・」


「聞こえないふりか。最近の高専の生徒は躾がなってないな」


背の高いイケメンな青年が腕を組んで俺を睨んできた。

スリムなスーツに手品師のようなマントを羽織っている。

この田舎ではかなり怪しく見える服装だ。


「知らない大人に話しかけられても答えないことに決めてるんです」


「ふっ、聞こえてるじゃないか。それは賢明な決め事だね」


うかつにも返事をしてしまった自分に後悔の念が・・・

こいつ、絶対危ないやつだ。

どうしよう、俺はここから拉致されるかもしれない。

すると、背後からいつもの陽気な声がした。


「おーい、最上ぃ。そこまで一緒に帰ろうよ」


「そこまでって、狩野は寮だからここから徒歩5分じゃないか」


「その5分だって一緒に帰りたいんだから、いいじゃん」


背の高い青年は獲物を見つけたハンターのような目で俺を見つめている。


「ほう、君が最上君か。友達と一緒に帰るなんて楽しそうだね」


「いえ、俺は別に楽しくないです」


狩野は俺の発言にショックを受けてしまった。

これは決して狩野に対して言った言葉じゃないのに。


「え? そうなの? 

最上って楽しくなかったの? 僕はショックだ」


「狩野、今それどころではない。この状況を見てくれ」


狩野は背の高い青年の存在に初めて気が付いたようだ。


「ほえ? お兄さん誰? 

ってか、お兄さん!人気配信者のハヤブサさんじゃないですか。

僕、ハヤブサさんのファンなんです。配信いつも見ています」


「それはどうもありがとう」


「今日はここに何か御用なんですか? 

ひょっとしてここで配信するんですか? 

そしたら僕も映りたいなぁ」


狩野、お前、はしゃぎすぎだ。

人気配信者か何か知らないが、こいつからは俺に対する殺意が伝わってくる。

隙を見せたらおしまいだ。

全身全霊集中しておかないと・・・


狩野の発言で周囲の生徒もこいつが人気配信者とわかったとたん、

ガラリと態度を変えて熱狂しはじめた。


「マジか、ハヤブサが現れたって」


「キャー、わたしのハヤブサ様ぁ♡」


「ハヤブサって確か、ここの卒業生だよな」


「何の用事で母校に来てるんだ?」


「何、何、配信するのか?」


「写メしちゃお」


集まって来た野次馬の生徒たちが、まるでアイドルでも見つけたようにはしゃぎ始めた。

狩野まで、ごそごそと鞄の中からノートとペンを持ち出してサインしてくださいと言い出す。


「狩野、お前がとるべき行動はそうじゃないだろ。

この殺気がわからないのか」


「ん? 全然」


狩野・・・情けないぞ。

背の高いハヤブサと呼ばれた青年は、俺を指さして声高に言い放つ。


「妹から聞いたぞ。

ダンジョンの中で魔物を素手で倒した最上ってやつはお前だな」


「たぶん、そうです」


「たぶんだと? ダンジョンの中で、

妹を魔物から助けるためにお姫様抱っこしたのは事実か」


「お姫様抱っこ? 妹さんって誰のことかな。

ダンジョンってどこの・・・」


「とぼけるな! 俺の妹は嘘を吐くような子ではない。

お前は、お兄ちゃんであるわたしの許可もなく、

勝手に妹をお姫様抱っこしたのだぁー―――!」


狩野が気をきかせて俺に小声で教えてくる。


「あの演習じゃね? リアルタイムアタックで桜庭と組んでたろ。

お姫様抱っこは見てないけど、お前そんなことしたのか。

ハヤブサって、桜庭のお兄ちゃんだったってことじゃない?」


桜庭、お姫様抱っこ、人気配信者ハヤブサ

この三つが繋がるまで、俺の脳はしばらく時間を要した。



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