第13話 ハヤブサとの一戦

「ハヤブサって、桜庭のお兄ちゃんだったってことじゃない?」


周囲の生徒たちもざわつき始める。


「桜庭って確か二年の女子だよな」


「ハヤブサってシスコン?」


「身バレやばくないのか」


「へぇ、桜庭あずさのお兄ちゃんだったんだ、ハヤブサって」


「ハッキリ言って、桜庭ってちょっと暗い子だよな」


ハヤブサの目が群衆の中の一人に移動した。


「おい、今発言したやつは前へ出ろ。

妹が暗い子って言ったやつ!」


おずおずと発言した生徒が前に出ると、いきなりヒュッと鞭が飛ぶ。


「痛っ!」


女の子たちがキャーっと悲鳴を上げ、先生を呼びに職員室まで駆け出す子もいる。


「無益な暴力はしたくない。

わたしは、妹をお姫様抱っこしたやつに

その資格があるのかどうかを確認しに来ただけだ」


そういえば、リアルタイムアタック演習で魔物の攻撃を避けるために桜庭を抱えてジャンプしたことを思い出した。


「いや、別に資格なんて欲しくありませんが」


「ダメだ! わたしの許可なく妹をお姫様抱っこした罪は重い。

悪いが、ここはひとつ一戦交わらせていただくよ」


許可なく抱っこした罪って、あれは深い意味はなかったのに。

桜庭はお兄さんにどういう説明をしたのだ。

気が付くと、周りの生徒はそれぞれスマホで撮影し始めている。


「ここで? 戦っていいのかな」


「隙あり!」


瞬間、ハヤブサの鞭が俺の頬をかすめた。

鞭がわずかに触れたところに切り傷ができ、血がすーっと流れる。


何も持っていない高校生に対して武器でかかってくるなんて卑怯じゃないか。

そっちが攻撃してくるのなら、しょうがない。

戦いを挑むのではなく、これは防衛本能だ。


俺は、頭を低くして相手の懐に潜り込もうとスタートダッシュをかける。


しかし、俺の動きは完全に相手の予想範囲内だったらしく、気が付いたら地面に伸されていた。

早い。さすがハヤブサというネームだけある。

地面に伸された俺の背中を踏みつけて、ハヤブサは笑った。


「なんだ、妹から聞いた話と違うな。

全然弱っちいじゃないか。問題外だな」


ハヤブサの靴がぐいぐいと背中に食い込んでくるほどに、俺は踏みつけられて何も抵抗できない。


「こらぁーーー!! お前たち、何やっているんだ。

校内で暴力沙汰を起こすんじゃない」


校舎から走って来たのは、五十嵐先生だ。

五十嵐先生は、ハヤブサを見ると気が付いたように言った。


「桜庭じゃないか。こんなところで何をしている」


「五十嵐先生、ご無沙汰しています。今日は天気がいいですね」


それでも、ハヤブサは俺を踏みつけるのを止めない。

天気の話をしてんじゃねえよ。

早く背中の足をどけてくれ。


「いや、何、妹から同級生に強い子がいるって聞いたもので、

本当かどうか確かめに来たんですよ」


「最上がそれだというのか」


「でも、違うみたいですね。

ご覧のとおり、簡単に伸されちゃいました。

せっかく一戦交えようと意気揚々とやって来たのに、

まるで手ごたえがありません」


いくらハヤブサが卒業生とは言え、自分の生徒が踏みつけられているのに何も注意しない先生ってどうなんだ?

俺はやっぱり五十嵐先生に嫌われているのか。


それにしても、このハヤブサって男はいつまで俺を踏みつけているつもりなんだ。


俺は、ハヤブサのマントの裾をつかみ、グイっと引っ張って体勢を崩させた。


「おっと、何するんだ」


あっという間に俺はハヤブサの長い脚を払いのけて立ち上がる。

ハヤブサはよろけながら、涼やかな瞳で俺を睨みつける。


「俺のマントを汚すな」


「戦うなら武器は使わないでください。こっちは未成年なんで」


「ふん、いいだろう。ハンデあっても余裕だ。

ご希望とあらば素手で勝負しましょう。

五十嵐先生、ちょっと暴れますがいいですよね。

すぐに終わりますので」


「あ、ああ、いいだろう。最上を鍛えてくれ」


いいのかよ!

卒業生が在校生を校内で戦うって言っているのに。

普通、教師なら止める場面じゃないか。


「さて、先生の許可をいただいたところだし、

やりますか」


ハヤブサは右手をゆっくりと俺の方に伸ばす。

指をパチッと鳴らすと、何かがはじかれたように飛んできて、

反射的によけた俺の肩をかすめていった。


何かおかしい。

武器は使わないと言ったはずだ。

これは、もしかして魔法か。

確かに素手だがこれはずるい。


的を外したハヤブサは美しい顔の眉間にしわを寄せる。

俺は、思い切って駆け出した。



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