第33話 魔石って貯めこんじゃだめなの?

「忍、帰ろうか」


「はい」


校長室から出ると、狩野と桜庭が心配して駆け寄ってきた。


「最上!」


「最上君」


友達に囲まれた俺を見て、父さんはちょっと驚いたようだ。


「友達かね」


「うん、うちのペンションにも来たことあるよ」


「へえ、珍しい。忍に友達ができるなんて。母さんが知ったら泣いて喜ぶぞ」


「珍しいなんて言わなくていいじゃん」


「よろしく頼みますね。えっとー…」


「狩野です」


「桜庭です」


「狩野君と桜庭さん。これからも忍と仲良くしてやってください。

あれ? 桜庭さんって桜庭隼人君の妹さんかね。

隼人君がわたしに連絡をくれたんだよ。

よく知らせてくれたね。ありがとう」


「そんな…わたしは何も…」


顔を赤くして恥ずかしがっている桜庭は、父さんの言葉ですべてが報われた気持ちになったのか、瞳をウルウルさせている。

女の子って意味わかんねーなぁ。


父さんは仕事があるからすぐに東京へ戻ると言う。

今回の事件がSNS上で炎上しているので、事の真相を上司に上げなければならないそうだ。





父さんを田沢湖駅から見送るために、親子で待合室の椅子に座っていた。

新幹線を待つ間、久しぶりに父さんと話をする。


「忍、学校は楽しいか」


「楽しいよ。でも、俺はダンジョン探索を一人でやっていたから、基本的なことが全然わからないんだ」


父さんはそんなの気にするなと言う。


「気にしなくても大丈夫さ。

これから友達から教わって自然と身に着くこともあるだろう。

そうだ、実は父さんが働いているところに内部資料というのがあるんだが、

迷宮探索者ランキングというものがあるんだよ」


「へぇ、そんなこと俺に教えていいの?」


「忍に関係する事だからあえて教えるんだ。

忍は魔石を持っているか?

まだまだ少ないと思うが、魔石はダン技研にちゃんと報告して提出するんだぞ」


「え、そうなの? 魔石ってダン技研に提出するものなの?」


「おいおい、基本的なことだぞ。やっぱり、今まで知らなかったのか。

まさかと思って言ってみたが、そのまさかだったとは………」


俺はそれを知らずにずいぶん貯めこんでいる。

しかも、貯まりすぎて一部は第5層界で電力エネルギーとして使っている。

勝手に使っていることがバレたら、俺は罪に問われるのだろうか。


「くどいようだけど、もう一回言うぞ。魔石はダン技研に提出しなさい。

ダン技研に魔石を提出すれば、代わりに報酬としてお金が振り込まれる」


お金? 換金できるとなったら話は別だ。


「換金できるのは、ポイントだけかと思っていた。

だから、ポイ活を頑張っていたんだけど、魔石もお金になるのか」


「そうだよ。自分の息子がそれを知らなかった事実に、父さんは驚いたよ。

二年生にもなって知らなかったなんて、基礎を勉強していないのか。

しょうもないやつだな」


「よく言われる」


「魔石でどんどんお金を貯めろ。そうすればランキング入りする」


「ランク入り? 見たことないなあ」


「毎週月曜日のテレビニュースで発表しているぞ。新聞にも載っている」


「テレビ見ないから。新聞も読まないし」


「これは言いたくなかったが、お前は本当にわたしの息子か?

いいか、これだけは覚えておきなさい。

内部資料は、ダン技研が各ポイントとステイタス、そして、魔石の数を

総合判断してランキングをつけているんだ」


「何のためにそんなことしてるの?」


「日本人はランキング好きだからな、探索者の意識向上のためだ」


俺が貯めこんでいる魔石の一部が電気エネルギーとして使えるということを、ダンジョンが発見されている各国が注目しないわけがない。

新しいエネルギーとして世界が採掘を推進しているのだ。

特に日本は再生可能エネルギーの開発の最先端を走っている。

やっと意味がわかってきた。


「魔石は大切な新エネルギーだ。レアメタルも含まれている。

国が採掘を進めているといことは、政策なんだよ。

だから、提出しなければならない。

高価な魔石は闇取引に利用されることもあるからね。

国の管理が必要なんだ」


父さんの話は、かなりヤバいことまで突っ込んでいる。

第5層界で使うのはもうやめよう。

これからはスライムを干した物を新しい燃料にするべきだ。


「わかった。全部出すよ、今度」


「ん? 全部って、まさかお前、貯めこんでいた?」


「え、まあ、そんなかんじ…」


「お前なぁ、迷宮探索政策室長の息子ともあろうものが、信じられない。

このことは、内緒にしておくから、魔石はダン技研に提出しなさい」


「わかった、そうする。で、やり方は?」


「そこから?…あきれたやつだ。

もう、新幹線が来る。教える時間はない。友達に聞いて教わりなさい」


「はい。あ、母さんによろしく」


「ああ、そんな言葉聞いたら、母さんはペンションに飛んでくるぞ」


父さんは秋田新幹線に乗って、東京へ帰って行った。


ピコーンと脳内で通知音が鳴る。

右手を振ってステイタス画面を出すと、メッセージが流れた。


『協力者をみつけるミッション・クリア。

おめでとうございます。ポイント50pt、アイテムを獲得しました。』


協力者って誰だったんだろう。

ハヤブサか、狩野か、桜庭か、たくさん該当者がいてわからない。

一番は、父さんだったかもしれない。


メッセージにあるアイテムって何かなと箱を開けて見ると、入っていたのはアルバム帳だった。

これから写真を撮ったらこれに貼れる。

協力者との思い出をたくさん残せるようにという意味か。

なかなかイキな計らいをしてくれるじゃないか。

明日、さっそく狩野に魔石のことを聞いてダン技研への行き方も教えてもらおう。




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