第68話 完璧執事トレスチャンー2

「で? トレントに何ができるんだ」


「トレントは前世の名前。

どうかわたくしに新しい名前をお授けください」


「名前かぁ……、ムズイな。

だから、君はここでどんな仕事ができるんだ。

それによって考えてもいい」


「ご主人様のためになることでしたら、何でも。

そうですね、執事みたいな役割を」


「執事って、貴族が雇っているようなあの執事か。

たしかにこれから人手不足になりそうだし、必要だな。

具体的にはどんな仕事ができる」


「予算管理、ボディーガード、泥棒除け。

木で出来ている物や木の実から、従者や労働者を作り出すことも可能です」


「それは助かる。

じゃ、執事の名前ね、執事の名前を付ければいいんだな」


「はい、ご主人様」


「うーん、うーん……、ダメだ。

いくら考えても執事といったら、セバスチャンしか思いつかない」


「セバスチャンもよろしいと思いますが、

できれば……、もうひとひねりできないでしょうか」


「トレントだったセバスチャン。長いな。

そうだ、トレスチャンはどうだ」


「トレスチャン。嬉しゅうございます」


「トレスチャン、さっそく仕事があるのだがいいかい?」


「なんなりと」


最近、第5層界に人が増えてきたので、セキュリティ対策したいと思っている事を俺はトレスチャンに伝える。


まずは、小屋と厩に鍵を付けること。

そして、畑と温泉に侵入者が来ないように見張りをたてること。


この二つは早急に取り掛かりたい事案だ。

それをトレスチャンに相談してみた。


「お安い御用でございます。」


そう返事をすると、トレスチャンはのそのそと小屋の玄関に向かって話しかた。


「おい、板でできた扉。聞こえるか? ご主人様の命令だ。この扉に鍵を付けよ」


すると、玄関扉の木目に顔が現れた。


「はい、かしこまりました」


扉のどこからか枝葉がニュルニュルと伸びてきて、扉が開かないように絡みついてしまった。


「凄げぇ……魔術も使えるのか。

でも、開ける時はどうすればいいんだ、トレスチャン」


「ご主人様が手をかざしてくだされば、枝葉は引っ込んでなくなります。

扉はちゃんとご主人様の顔と手を認証します」


半信半疑で俺は扉の前に立ち手をかざした。

すると、枝葉はすーっと引っ込んで元に戻った。


「いかがでしょうか? ご主人様」


「うん、気に入った。だが、見張りはどうやって増やすんだ」


「わたくしと同じ土地に植えられた木の実たちがいます。

せっかく植えられた木の実たちです。新しい役目を与えましょう」


トレスチャンは、今度は畑のほうへのそのそと歩いて行って、地面に寝ている木の実たちに話しかける。


「おーい、新しいご主人様の命令だ。

早く目をさまして、この土地を守る番人じゃなくて番樹になっておくれ」


すると、畑の隅っこに転がっていた木の実たちが目を出し、ぴょこぴょこと木の形をしたミニトレントになった。


「はーい、お呼びですか」


「ふぁぁ、よく寝た、よく寝た」


「仕事だ、仕事だ」


こいつらにも名前を付けないといけないのかと、俺は困った。

それを察したトレスチャンが言う。


「これはわたくしの従者ですから、名前は結構でございます」


俺の表情で何を考えているかまで読んで、即答してくる。

トレスチャンは完璧な執事だ。


「あいがとう、トレスチャン。

彼らはミニトレントでいいか、安直だけどな。

ところで、君たちは樹木だから報酬は何がいいのかなぁ……」


「何も求めません。

使っていただけるのが何よりの報酬でございます」


「そうはいかない。

そうだ、井戸水を好きに飲んでいいよ。

あと、温泉の横に川があるからそこから引いている水も」


「そんな、よろしいんですか?」


「あ、俺が困らない程度にしてくれ。全員で飲まれたら枯れてしまう」


「よろしかったら、

川から水を引いている水で貯水槽作って貯めておきましょうか」


トレスチャンは頭も切れる執事だ。

彼はもう魔物ではない。

第二の樹生をここで生きてくれれば俺も嬉しい。

生まれたばかりで、いきなりジジイだが……




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