第63話 ドラゴンの住処
ドローンから送られてくる桜庭とジュリアが鉱石を採掘している様子を、音声だけ聞きながら俺は畑仕事をしていた。
「だいぶ袋が重くなってきたわ。すいぶん採ったわよ。
お嬢ちゃん、あんたは?」
「まだまだ、これからよ。高専生を甘く見ないで。
ここから猛スピードで追い上げるから見てらっしゃい。
…ん? 待って。今、何か言った?」
「だから、あんたはって?……それ以外は何も言ってないわよ」
「何か聞こえたわ。ほら、また」
「……何も聞こえないじゃないの」
グルルルル、
低い唸り声がスマホを通しておれの耳にも届いた。
何かいる?
「キャー!」
彼女たちのうちどっちが発したのかわからない黄色い悲鳴に、俺はスマホ画面を見るために畑から立ち上がった。
「キャー! ドラゴンだわ」
「そ、そのようね。ど、どうします?」
「どうします? 探索者なら戦うに決まってるじゃない」
「も、もちろんよ……、決まってるわ」
スマホ画面を覗くと、ジュリアがリボルバーを取り出し、ドラゴンに銃口を向けて狙いを定めているところが映し出されている。
鉱石がある場所はドラゴンの住処でもあったのか。
俺は、急いで厩からシロを引っ張り出した。
ここのドラゴンは人間に危害を加えることはないが、住処を荒らされたうえ、武器で攻撃されたら何をするかわからない。
人間だって、そんなことをされたら怒るだろう。
「はっ!」
シロを走らせて急いでドラゴンの住処へと急ぐ。
ドラゴンの住処なら場所は知っている。
鉱石が採れる場所の周辺がそうだったとは…
俺は気づくのが遅かった。
わかっていれば、彼女たちだけで行かせなかったものを。
しかし後悔している暇はない。
とにかく、急いで助けに行かなくては。
シロの足が速くて助かった。
俺が現場に着いた時、ドラゴンは彼女たちに向かって口から炎を吐いている最中だった。
危惧したとおり、ジュリアの放った一発がドラゴンを怒らせてしまったのだ。
さらに、ジュリアは銃口をドラゴンに向けている。
「待て。ジュリア撃つな!」
「最上君!」
ドラゴンの激しい炎が桜庭を狙った。
とっさにジュリアは桜庭を抱き込みながら前転し、炎から逃れる。
「きゃっ! ジュリアさん、大丈夫? 足から血が……」
「ったく! あんた、とろいんだから! マジでうざいわ」
ジュリアは桜庭を庇って負傷していた。
「桜庭、ジュリアをお前のヒーリングで頼む。こっちはまかせろ」
俺はドラゴンを落ち着かせるために、ポケットから丸い緑色の玉を取り出し、目の前に差し出した。
「ごめんよドラゴン、君の住処を荒らしてしまったな。
安心しろ、俺はフレンドリーだ、フレンドリー」
ドラゴンは興奮状態で炎を吐くことを止めない。
俺は炎をひょいとかわしながら、ドラゴンとの距離を少しづつ詰めていく。
「よーし、よーし、大丈夫だから。俺は君の好きなモノを知ってるよ。
ほら、これ。この匂いを嗅いでごらん。落ち着くから」
緑の玉は、俺がさっきまでいた畑に生えていたオオバの葉っぱだ。
ポケットに詰め込んだまま馬で駆けてきたら丸い球体になっていた。
ドラゴンはオオバの香りに気が付いて炎を吐くことを忘れ、じっと俺の手のひらにあるものを見た。
俺はさらにゆっくりとドラゴンに近づきながら、右手でオオバの玉を嗅がせてやった。
ドラゴンは、ふぁーーっと大きなため息をしてから、すーっと香りを吸い込んだ。
俺はもう片方の手をそっと伸ばし、ドラゴンの頬を優しく撫でてやる。
「いい香りだろ。これを君にあげよう。
だから、俺たちを許してくれ」
ドラゴンはゴロゴロゴロと猫のように咽を鳴らして、俺に甘えてきた。
嬉しそうに目を細めて、オオバの香りを楽しんでいる。
「気に入ったかい? そんなに気に入ったのなら、また持ってきてあげる。
今日はこのまま帰らせておくれ。いいだろ?」
ドラゴンに俺の想いが伝わったのか、頷くように首をたてに振ってから、猫のように丸くなって眠り始めた。
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