第7話 地元の婆ちゃんトラップ

 宿泊棟とは別の自宅用のダイニングでみそ汁をお椀によそう。

麹味噌のみそ汁から、かつおだしの香りがふわりと昇った。

宿泊客と同じ、定番の朝食メニューが載った皿に、おむすびが二個。

海苔は食べる直前に自分で巻くようになっている。


「いただきます」


爺ちゃんも婆ちゃんもペンションのダイニングで忙しいから、ここには俺しかいないが、丁寧に手を合わせてご飯をいただく。


 朝のエナジーチャージが終わると、登校リアルタイムアタックスタートだ。

もちろん、のんびり歩いていたら間に合わないから走ってスタートする。


いつも通りに走っていると、道のわきにイノシシなどを捕獲する用のくくり罠が見える。

あんな単純な罠にかかるほど愚かじゃないよ、と思いながら罠を避けて通り過ぎたところ、突然丸太がビューンと横から飛んで来た。

俺はスッと難なくよける。

これは爺ちゃんが仕掛けたトラップだ。

爺ちゃんのトラップの癖はだいたい覚えている。

罠を仕掛けそうな場所。

罠の先にある危険も、パッと予測できる。

爺ちゃんの原始的なトラップで強くなっている気がしない。

難なく俺は避けて通れるが、これでかわいい孫が怪我したらどうするつもりなのか。

ここを通る人間は俺ぐらいのものだからいいようなものの、

一般人を巻き込まないようにできるだけ早くトラップを通過し、

もう発動しないようにしなければならない。


 交差点に出ると、ここから先は自動車も通る。

信号も横断歩道もない道路の端を見ると、向こう側に渡りたいけど渡れないでいるお年寄りがいた。

地元のお婆ちゃんかな。


「あのぅ、兄さん、めんぶがねども(申し訳ないけれども)、こご渡りでども。

おらどご向こう側さ、連れで行ってもらわえねが?」


訛りが強い。

よくわからない秋田弁だけど、たぶん向こう側に連れて行ってくれと言っているのだろう。


「いいですよ。おんぶしましょうか?」


「あや、しかだねごど(ありがたいこと)」


気安くいいですよと言ったものの、横断歩道は今来た道を戻らないといけない場所にあった。

ここで、事故っても嫌だし、しょうがない横断歩道まで戻るか。

お婆ちゃんをおんぶして、横断歩道まで戻るって車が止まってくれるのを待っていた。

しかし、なかなか止まってくれる車がない。


止まれよ! 歩行者が横断歩道を渡ろうとしてるだろが!


そのうち車の流れが途切れたので、やっとお婆ちゃんを向こう側に連れて行くことができた。


「あや、あや、まんず、助かったぁ。兄ちゃん、高専の生徒さんだが?」


「はい、そうです。じゃ、僕は先を急ぎますので、これで・・・」


「待で、待で、ほれ、これ持っていげ!」


そう言って、お婆ちゃんが俺の手に渡したのは何か液体が入った瓶だった。


「これ、もしかしてポーション?」


「さあ、何だがわがらねども、高専の兄さんがたがみんな喜ぶ物みでったから」


「ありがとう、お婆ちゃん。それじゃ」


この辺に住む地元民が、こんな貴重なモノをどうやって入手しているのか謎だ。


いっけね! リアルタイムアタックだった。

今のでだいぶタイムロスしたかもしれない。

ここから学校までは全速力で走るぞ。

田沢湖高原の道は下ったり上ったりのゆったりとしたアップダウンが続く。

毎朝マラソンしているようなものだが、これで肺活量も耐久力も上がる。


「やった! ギリギリセーフ」


 校門を過ぎ昇降口の下足棚に寄りかかって、はぁはぁ息を弾ませ座り込みそうになるところを必死に我慢する。


「最上、1分遅刻だ」


五十嵐先生が、仁王立ちになって俺を阻んだ。


「す、すみません・・・」


「これだから、自宅組は・・・」


そう言い捨てて、先生は廊下を去って行った。

なんだよ、自宅から通っていて何が悪いんだ。

それぞれの住環境が違って当然だろうと、言いたい気持ちをぐっと堪えた。



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