第8話 アイテムボックスって購買部で買えますか
「もーがーみー君、今日も五十嵐先生に怒られちゃったねぇ」
クラスメイトの狩野が絡みにくる。
こいつは、入学したての頃から、なぜか俺にくっついて来る。
東北分校に東京から入学する生徒は少ないから、最初は物珍しくて絡んできているのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
狩野によれば、《正直そうだから》というのが理由だという。
そう言われても、俺はそうは思っていないが。
*
東北分校一年に入学したての頃。
「ちょっと聞きたいんだけど、いいかな。
最上ってさぁ、東京から来たんだってな。
なんでわざわざ東北分校を受験したの?」
初対面でいきなりそう切り込んできて、俺はハッキリ言って驚いた。
しかも、いきなり呼び捨てにするなんて失礼なやつだ。
「あ、ひょっとして、怒ってる?
呼び捨て嫌だったらそう言っていいよ」
「嫌だ」
「あぁ、ごめん、ごめん、最上君。
僕は、狩野智也(かりのともや)。宮城県仙台出身。
どうぞよろしくお願いします!」
「最上忍・・・・です。どうぞよろしく」
こういう陽気なキャラは苦手だ。
俺じゃなくても、他に友達になれそうなやつはいっぱいいるのに、何で俺に話しかけるんだ。
超ウザいんだけど。
「僕さ、何ていうか・・・・親から離れて寮に入ったんだけど。
なんだか学校でも寮でも同じ奴らと顔を会せるのって、息苦しいんだよな。
最上は・・・あっ、最上君は、寮で見かけない顔だよね」
「ああ、母親の実家から通っていから」
「へぇ、どうりで寮で見かけないはずだ。
それなら、親から離れて暮らしても寂しくないだろ。
僕なんか、最初は天国だと思ったけど、
今では母ちゃんの作る鶏のから揚げが恋しいわけよ」
「それ、ホームシックか」
「やっぱりそうか、これをホームシックって言うのか。
最上・・・君はそういうことないの?」
「無理に君付けしなくていい」
「あはっ! 悪いな。なんか僕、使い慣れないからさ」
面倒くさいやつに捕まってしまった。
自分を三人称で僕とかいう癖に、他人は呼び捨てにするって、どういう幼少期を過ごしてきたんだろう。
本当は、仙台のお坊ちゃまかもしれない。
それが狩野の第一印象だ。
とにかく、よくわからんからこいつにはあまり近づかないようにすることにした。
ところが、こいつは逃げても、逃げてもこいつは絡んでくる。
そのうちに、逃げることに疲れ、俺はあきらめた。
今では狩野が唯一の友達になっている。
*
俺は登校途中に出会った不思議なお婆ちゃんの話をした。
「遅刻したのには訳があってな、通学途中で道路を渡れないお婆ちゃんを助けたんだ」
「おう、美談じゃねえか」
「言いたいのはそこじゃなくて、そのお婆ちゃんからお礼にってこれを貰ったんだ」
俺は、マジックバッグから小瓶に入ったポーションを取り出して見せた。
「これ、回復ポーションじゃないか。なんで、道端で会ったお婆ちゃんがこんなものを持っているんだよ」
「やっぱり、これポーションか」
「何気にマジックバッグから出すなよ。盗まれるぞ」
「それなんだけど、学校から支給されたマジックバッグがそろそろ満杯なんだ。
購買部にマジックバッグ売っているかな」
「そりゃ売っているよ。マジックバッグは学校から支給された物だし、
必要備品だから購買部に行けば買える。
でもな、マジックバッグが二つになったら邪魔じゃね?」
「そうだよな。だから、アイテムボックスが欲しいんだ。
アイテムボックスも購買部行けば買えるのか?」
俺の発言を聞いて、狩野の口をあんぐりと開いたまま約三秒固まった。
「お前、バカか? 購買部に売ってるわけないだろが!!」
「え? だめなの? じゃあ、東京校に発注してもらえばいいのか」
「いやいやいやいや、そういう問題じゃなくて!
そもそも、アイテムボックスに関するお前の認識が間違っている」
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