第36話 環境依存スキル発動
ペンションの宿泊客の夕食が終わる頃、
俺は皿洗いを手伝うために1階に降りてくる。
こうして時々は爺ちゃんたちの手伝いをしているのだ。
皿洗いをしていると、ロビーにあるテレビの音がキッチンまで聞こえてくた。
テレビの音声だけを聞きながら、次々に食器を洗っていると、
「今週の迷宮探索者ランキングが発表されました。
今週の順位はご覧の通りです。
ランク10位に新しい探索者が入って来たようですね」
「日本人でしょうかね。名前がちょっと……読めません。
文字化けしていますが、これは経産省が出した正しいデータでも文字化けしているのでしょうか」
「実はそのようです。文字化け解消ソフトを使っても直せなかったと、担当者筋の話です」
父さんが言っていた探索者ランキングのニュースだ。
アナウンサーは、探索者ランキングに読めない文字の人が入ったと報道している。
そんなこともあるんだな。
別にどうでもいいけど。
俺がランキングに興味が無いのはいつものことで、今日に限ったことではない。
ランキングのニュースを見ながら、宿泊客が驚いたり笑ったりしている声も耳に入ってくる。
ランキングなんて、俺にはどうせ関係のない話だ。
「おーい、忍。お前に電話だー」
爺ちゃんが俺を呼ぶ。
「誰から?」
「父さんだ。早ぐ出れ」
「父さんなら、携帯にかけてくれればいいのに」
「最初は母さんが爺ちゃんの声を聞きたいってかかってきたなだ。
爺ちゃんだって母さんの声は聞ぎでべた。
そしたら、父さんに代わったなだ」
「ふーん」
最近、父さんと会ったばかりなのに何の話だろう。
「もしもし、忍か?
あれからダン技研支部に行って魔石を提出したか?」
「なんだ、その話か。やったよー」
「そのとき、ステイタス画面の情報も読み込ませたか?」
「やったよー」
「そうか。そうだったのか、やっぱりな」
「俺なにかまずいことでもやった?」
「いや、そんなことはない。
そんなことはないよ。それでいいんだが……」
「なら、問題ないじゃん」
「お前に内部資料の話をしたのを覚えてるか?
ダン技研でデータを数値化してランキングを作っていると」
「なんかそんなこと言ってたね」
「今週のランキングニュースをテレビで見ただろ」
「見てなーい。でもさっきまで音だけ聞いてた」
「音だけは聞いていたんだな。偉いぞ忍」
「褒めてくれてありがとう」
「最近、急上昇してトップ10入りした探索者がいるんだが」
「ふーん、すごいね。そんな人がいるんだ。なんていう人?」
「それがだな、名前がわからないんだよ。
わからないというか正確にいうと読めない」
「へえ、父さんでも読めない字があるの?」
「読めないよ、文字化けしているんだから」
「文字化け? そういえばアナウンサーがそんなこと言ってた。」
「パソコンどうしの規格が違うと、
変な文字になることを文字化けっていうんだ。
ダン技研では、文字化け解消ソフトを使って
たいていの文字化けは修正できるのだが、
あの名前だけは、どうしても修正できなかったんだ」
「そんなことを俺に言われても困る。俺は技術者じゃないから」
「いや、そうじゃない。忍に助けを求めてるんじゃないんだ。
お前に技術的知識を求める気はない」
「ずいぶんな言われようだな」
「そうじゃなくて、確認したいことがあるんだ。
あの文字化けでランクインした探索者は、
忍がダン技研に行った翌日から急に浮上してきたんだよ。」
「まさか、俺だと言いたいんじゃないよね」
「そのまさかだ。
ダン技研ではIDを調べれば誰のデータか判明できる」
「そんなバカな」
「お前のスキルは何だ」
「環境依存だけど」
「環境依存とは文字化けするという意味だ」
「へえー、そうなんだ」
「そうなんだじゃない。トップ10入りしたのは忍なんだ」
「そうかなぁ、実感湧かないなぁ」
「そこで確認なんだが、
この文字化けを解明しようとする人たちが出てくると予測される。
いつかは、解読される可能性があるとして……」
「あるとして?」
「お前がダン技研に登録した時のハンドルネームを聞きたい。
大騒ぎになる前に手を打たないとな」
「ハンドルネーム? そんなのあったっけ」
「あったっけじゃないよ。思い出せ。登録用紙に書いただろう。
本名のほかに、ハンドルネームを書く欄があったはずだ」
「うぅーん、なんだかわからなかったから、全部本名で書いたよ」
「え? 全部本名で?」
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