第35話 第5層界天国

「なあ、狩野。行かないか?」


「待ってました! 第5層界だろ。

僕がダン技研に付き添ったお礼に何かおもしろいことしてくれると期待してたんだ」


「馬に乗って、第5層界を探検しようよ」


「いいね! 行こう、行こう」




 第5層界は今日も快晴だ。

雨が降る事もあるが、俺がいない夜に降ることが多いようだ。

雨が降った痕跡しか見たことがない。

それでも、比較的乾燥しているので、スライムを干していても大丈夫だった。


「これがお前の言ってた例の干しスライム? 

すっげー多くないか。百枚くらいあるぞ。よくこれだけ採集したな」


「これな、どこにあったと思う?」


「どこにって、ダンジョンだろ。どこかの第1層の」


「さて、どこのダンジョンでしょう。

正解したら、白い馬に乗っていいよ」


「マジか。えーっと、えーーっと、角館ダンジョン」


「ブブー」


「田沢湖第2ダンジョン」


「ブブー」


「わかるわけないじゃん! もしかして、また未発見のダンジョンか?」


「お、正解に近づいた」


「えええーーーー! また新しいダンジョン発見したのかよ。

そんなの無理だよ。わかるわけないじゃん」


「降参?」


「降参!」


「正解は、ムーミン谷ダンジョンでした」


「うっそ! ムーミン谷でダンジョン見つけたのか」


「そうだよ。誰も入ったことないから、スライムがうようよいる。

驚くのはそれだけじゃないんだ。

ムーミン谷ダンジョンとここ第5層界は繋がっていたんだ」


「は?」


「この間の野営訓練で、ムーミン谷ダンジョンを探索していたら、

転移石のボタンに偶然触ってしまって、気が付いたら第5層界に来ていたんだ」


「まさか! 本当か? 大発見じゃないか」


「それで、俺はここで温泉に入り、新じゃがスープを作って寝袋で寝た」


「ははぁ、それでわかったぞ。寝袋をここに置き忘れたんだな。

謎が解けた。お前が寝袋を取りに行くときに山と反対方向へ走って行った謎が。

お前は、秘密のダンジョンから第5層界に寝袋を取りに来たんだ」


「ピンポーン! ご名答」


「やべえな、他のダンジョンと繋がっているなんて」



俺たちは厩へ行って馬たちを撫ででやった。

トウモロコシは俺がいない間に勝手に食べてしまうから、最近は厩の中に干し草とニンジンを置くようにしてある。


「シロに乗ってみる?」


「いいのか?」


狩野は喜んでシロの手綱をとったが、シロが嫌がって狩野から離れようとしてしまう。


「シロはちょっと気難しいんだ。慣れるまでに時間がかかるかも」


「残念だけど、僕はブチでもいいよ」


ブチは人懐っこく、すでに狩野が気に入ったらしく顔を擦り付けている。


「ブチ、僕が乗ってもいいかな」


ブチはおとなしく狩野が乗るのを待っている。

相当狩野を気に入ったようだ。

俺はシロにまたがり、俺たちは馬で探検に出かけた。

馬に乗りながら、喜んでいる友達の笑顔をみるのは幸せな時間だ。


「さっきさ、俺はダン技研で全部換金しなかったんだ。

ゴールドだけ手元に残したんだよ」


「なんでゴールドだけ残したの?」


「ちょっと考えがあって」


「何それ、気になるな」


「さっきの、第5層界がムーミン谷ダンジョンと繋がっているっていう話。

ということは、他のダンジョンとも繋がっていているかもしれない。

他のダンジョンから人が来ても不思議じゃないだろ」


「第5層界に人が増えるかもしれないということか?」


「うん、考えられるだろ」


「ああ、いい人が増えればいいけど、

盗賊みたいな人が来たら嫌だな。物騒になるじゃん」


「それも考えた。でもさ、ここを開拓したのは俺だから、

ここで物や知識を持っているのは俺だと思うんだよ」


「確かに…お前、まさか警察官になろうって考えてる?」


「それはないよ。そんなことより、不便さを感じている人たちが増えたら、

それを解決できるような商売ができるんじゃないかと思って」


「商売? 最上の発想が突飛すぎて付いていけない」


「だから、ゴールドをここの通貨にするんだよ。

ここで財を築くのも面白そうだと思わないか?」


「ダンジョンで魔物を狩るのもいいけど、商売も悪くないな」


「よし! 走るぞ。向こうの丘まで競争だ」


「ちょっ、待てよ! おいていくな」


狩野、悪いな。

足の速さはシロのほうが断然速いのだ。

伝えるのを忘れていた。

ブチは愛嬌があるけど、走りには向いていないって。



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