第128話 証拠がない
「ここだとアレだ。話はパトカーの中で聞こう」
俺は、警察官に連れられてパトカーへと戻ることになった。
それを見ていた消防士のお兄さんが、声をかけてくれた。
「おーい、少年。トイレは済んだのかぁ?」
「さきほどは、どうもありがとうございました。おかげさまでスッキリしました」
警察官が何のことだと、消防士に聞いてきて、消防士のお兄さんは事の成り行きを説明していた。
「え、この少年が、行方不明になったというダンジョン探索者なんですか?」
「どこから戻って来たのか、わからないが、とにかく無事だったようだ」
「無事で何よりです。俺が見たときは、この子、パトカーの後部座席で、おにぎり食ってましたよ」
「ったく、こっちの立場も考えず……」
「無事ならいいじゃないですか。じゃ、うちらは解散でいいですかね」
「いやまだ、魔物を駆除できたかどうか確認していないし」
「魔物を駆除するような子には見えないけどな。普通の高校生じゃないですか」
「それが、この少年の話はぶっ飛んでいて、聞いていると頭が痛くなるんだよ」
「ふーん、俺も立ち会いましょうか? その事情聴収に」
「そうだな。一緒に話を聞いてくれるだけでもいいから、立ち会ってもらえるか?」
話がぶっ飛んでいると言われましても、俺は普通に説明してるつもりなんだが。
それにしても、事情聴取って寒風山以来だなぁ。
刑事ドラマみたいでワクワクしてくる。
やっぱ、カツ丼だよな。大盛にしてもらえるかな。
「で、魔物が出現してから、君はどうしたのかね?」
俺は、魔物が目に見えない形で現れて、サーマルビジョンで姿を追ったことから始まり、転移石でパトカーに戻ってくるまでの出来事を説明した。
それなのに、一連の流れの話には、「証拠がない」と言われてしまった。
「魔物はそっこー駆除だ、そっこー駆除。何故駆除しないんだ!」
「駆除って必要ですか?」
「あたりまえだ。害獣は駆除する。それが市民の安全を守る事だ。
それで? やっつけた証拠は?」
「証拠と言ったら、これを拾っておきましたが」
俺は、アイテムボックスを右手で開いて、バグベアが落とした剣を取り出した。
「ひっ! 刃物じゃないか。銃刀法違反で現行犯逮捕するぞ」
「えええ! 逮捕なんか嫌です。なんでそうなるんですか? 俺はこれ要らないんで、証拠品として提出します。拾得物です。拾得物」
「警察さん、もう、これでいいじゃないですか? 彼はどうやら本当のことを言ってるようですよ」
消防のお兄さんが弁護してくれた。
「だが、駆除した死体もその写真もない。駆除していないなら、任務を遂行したことにはならない」
そんな……、任務遂行にはならないと言われても……
だが考えてみれば、もしかして配信していたら証拠は残せたかもしれない。
「そうだったぁー。配信しておけばよかったぁー。やっちまった!
なんで配信を思いつかなかったんだろ。失敗した」
「そうだ、ダンジョン探索者ならすぐ配信するだろう。動画が残っていないなら証拠は無いのだな」
「じゃ、ダンジョンからもう一度バグベアを呼びます。
申し訳ありませんが、魔物が出現したところから再現ドラマしましょう」
ワン! ワン! ワン! ワン!
(そうだ、お巡りさんが逃げ出したところから再現しようぜ)
「大人をからかうんじゃない」
ムッ……、真面目に言ってるのに。
「おまわりさん、真っ先に逃げたくせに」
「あれは、逃げたのではない。応援を呼びに戻ったんだ」
本当かよ。
と、内心思ったが、ここで争ってもしょうがない。
「ああ、それはありがとうございます。以前にも県警のみなさんにはお世話になっているんですよ。もうこれ以上県警本部長さんには、迷惑かけられません。俺はここで、お役御免ってことで」
ワン! ワン!
(忍、いいぞ。こんな任務投げ出してしまえ)
「ちょっと、待った」
「秋田県警本部長さんによろしく。今回の件はダン技研から報告書をあげときます」
ワン! ワン!
(警察本部長と知り合いなのか)
「待ちなさい」
「あぁ残念だなぁ。地元警察に信用してもらえないなんて」
「そんなことはない。そんなことはないよ、忍くん」
「こっちだって、本気でやってるのになぁ。
うわーん、ギブミー・カツ丼!!」
「そうだよね、わかっているとも。カツ丼は意味わからんが…」
カツ丼の意味がわからないのかよ!
自白させたきゃカツ丼って、爺ちゃんと見た刑事ドラマではテンプレだぞ。
消防のお兄さんが、間に入ってくれた。
「少年。もう、いいんじゃないか? これくらいで」
ここは、消防のお兄さんに免じて、これくらいにしておくか。
カツ丼の夢は幻と消えたが。
「うん、わかった。大人っていろいろと大変だもんね」
「大人の事情なんて、考えるな。」
「消防のお兄さん。かっけー! 俺を弟子にしてください」
「またどこかで会えたらな」
ワン!
(いちいち、かっこいいこと言う兄ちゃんだな)
俺もああいう大人になる。
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