第27話 ムーミン谷ダンジョンー2

ここからなんとか、しなくちゃな。


 リュックの中に入っている二個の石のことを思い出した。

そういえば、これは狩野から第5層界でお礼だと言ってもらった石だ。

「何かの役にたつだろ」と、狩野が言っていたことを思い出す。

何の役に立つのかは聞いていない。


説明してくれよ、狩野。


一個を手に持って、まじまじと石を観察してみる。


「なんとなく、転移石に似ているような気がするが………

ん? 今、なんか・・・風が吹いてこなかったか?」


 優しい風が頬を撫でて行った。

横穴があるのか?

暗闇に慣れてきて、よく見てみると横に洞窟が広がっていた。


まさか、ダンジョンってことはないよな。

また未発見のダンジョンを見つけてしまったりして。

そんなことはないよなと思いながらも先に進んでみる。

洞窟を進むと、スライムがポコポコ湧いて出てくる。


「そんなことあった! ダンジョンじゃん。スライムがいる」


せっかくだから、スライムを狩ってマジックバッグに取り込んでいく。

何かの燃料くらいにはなるかもしれない。

こんなにスライムが出るということは、誰も入ったことが無いのだろう。


と、そうなると奥がどうなっているのか気になる。

魔物が出たら出たで戦えば、魔石も手に入れることができる。

もしかして、レアドロップとかあったらラッキー。


だが、行けども、行けども、スライムは出ても魔物どころかコウモリも出ない。


「ああ、もう疲れた」


探索はもう打ち切ろうと、壁に手をついてため息をつく。


すると、偶然、壁にあった石に触ってしまったらしく、いきなり周辺の景色が高速で飛んで行く。

やばっ!

転移石に触ってしまったようだ。

階層が変わるとクエストしなくちゃいけないじゃないか。

ムリ、ムリ、ムリ、ムリ・・・

お願いだから、一休みさせてくれぃ!





 念じた効果があったのか、転移した世界はのどかな風景が広がっていた。

それは、どこかで見たことのある世界。

あの山の形は、秘密のダンジョン第5層界に似ている。


東の方角から見覚えのある馬が走って来る。

ブチだ、俺の馬のブチだ。

ブチは俺を見つけると、嬉しそうに顔を寄せてきた。

ブチがいるということは、ここは第5層界なのか。


「ブチ、家に連れて行ってくれ」


俺はブチにまたがり、荒野を走っていく。

ムーミン谷ダンジョンと、俺の第5層界が繋がっていることは大発見だ。


ということは、ひょっとして他のダンジョンと繋がっている可能性もある。

他のダンジョンからここに到着する人がいても不思議ではない。

知らない間に、ここに他の住人が増えていくことも考えられる。

今までは自由に馬を放牧していたが、それも出来なくなるかもしれない。


「ま、あれこれ今から心配してもしょうがない。晩飯の支度でもするか」


俺は自分の小屋にたどり着いて、ブチから降りた。


「いい子だな。シロは家にいたんだな。よーしよし、おりこうさんだ」


二頭の馬たちにトウモロコシをあげて、可愛がっていると心が癒される。

それにここにはトイレもあるし、テントを張らなくても小屋で寝ることができる。


ムーミン谷ダンジョンがあってよかった。

まさか第5層界と繋がっているとは・・・

そうだ、回収したスライムを干して燃料にしよう。

今夜は、じゃがいものスープでも作るか。

最近収穫したばかりの新じゃがと新玉ねぎで、温かいスープを作ろう。


 食後は星を見ながらゆっくり温泉に入って疲れをとり、

小屋の屋根裏で寝袋に入った。

窓からは、満天の星空。

今日はなんだか疲れた。

明日はどうすればいいのだろう。


「あ!」


思わず声に出してしまった。

のんびりくつろいでいて、すっかり忘れていた。

まだ野営訓練の最中だった。

確か、翌朝9時にテントを撤収し清掃することって書いてあったような気がする。

ような気がするではダメだ。


確認しよう。

行動計画表はどこだ?


しまった、ムーミン谷ダンジョンにリュックごと置いてきてしまった。

帰るには帰れるけど、ここから帰ったら家の近くのダンジョンに戻ってしまうではないか。

待て、待て、ムーミン谷ダンジョンに通じていた場所に戻ればいい話じゃないか?

それはかったるい。

戻るのはかったるい。

…………

そんなことを考えているうちに、俺はだんだん眠くなってしまった。




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