第114話 ノマド・キャンパー・コロニー
「今、海からハチ王子が無事に上がってきます。
このロープの先にハチ王子がつかまっているはずです。
あ、頭が見えました。ハチ王子です。
皆さん、これがハチ王子の素顔です!」
岸壁から這い上がると、ハヤブサが配信していた。
「ハヤブサさん、配信中ですか」
「ハチ王子………よく頑張ったね。みなさん拍手~!」
「あの、俺また秋田犬のアバターなってます?」
「ノー・アバターでお送りしてます」
「聞いてないよー! 素顔を晒してます?
こんなに髪の毛びしょびしょだし、素顔だなんて超恥ずかしいじゃないですか!」
「いいじゃないか。水も滴るいい男だよ」
「からかわないでくださいよ」
桜庭がハヤブサの後ろから歩いてきて無言でタオルを差し出した。
「ありがとう。あれ?これ、うちのペンションのタオルじゃないか」
「お爺ちゃんが、
ダンジョン入り口の規制線張られている所まで来てくれたのよ。
あの子は海に潜ると言っていたのに着替えを忘れてしまって、これを渡してほしいって。
はい、これ着替えよ」
「そうだったのか、爺ちゃんありがとう」
俺はさっそく着替えようと、その場でウエットスーツを脱ぎ始めた。
桜庭兄妹がそろって悲鳴をあげた。
「キャーーーーー!!」
「待ったーーー! ストーップ!
ここで着替えるな! 配信中だぞ」
「いけね。前も同じようなことをやったっけ。またやらかすところだった」
俺が以前、小安峡ダンジョンでも脱ごうとしたことを桜庭は覚えていた。
「どうしてあなたは、素顔を晒すのを恥ずかしがるのに、裸になるのは恥ずかしくないわけ?
その基準がわからないわ!」
「早くあっちの岩場に隠れて着替えてこい! あずさは見るなよ」
「見るわけないじゃないの! お兄ちゃんったら!
わたしのこと、そんな女の子だと思っていたの?
まったく、どいつもこいつも…………」
俺が岩に隠れて着替えている間じゅう、ずっとハヤブサが妹のあずさに謝っている声が聞こえていた。
この喧嘩も、配信されているんだよね。それはいいのか?
「ハヤブサさん、さっきまで狩野いましたよねぇ。
どこかに移動しちゃいましたぁ?
ハヤブサさん、あのぅ、ハヤブサさん?…………ダメだ。
妹に謝るのに必死で俺の声が届いていない」
着替え終わると、桜庭兄妹には声をかけずにシレっと俺は移動を開始した。
移動先はここからそんなに離れていない。
走って行けば余裕だろう。
*
ユズリハが配信しているノマド・キャンパー・コロニーに到着。
「お待たせしました。ハチ王子こと最上忍、ただいま参上!」
って、かっこよく登場したつもりなのに誰も聞いていないという…………
コロニーには十数台のキャンピングカーが間隔を開けて駐車されていた。
コロニーの中央部は広場のように使われていて、15~16人があつまって賑やかに過ごしている。
ちょっとしたパーティというほうがふさわしいかな。
「コーヒーはいかが?」
ノマド・キャンパーのおばさんにすすめられて、俺はコーヒーを受け取る。
「あの、ここに日本の女子高生探索者が来ませんでしたか?
ここから配信をしていると聞いて来たんですが」
「あら、ユズリハのことね。あなたユズリハの友達?
彼女ならむこうでインタビューしているわよ」
おばさんが指さした先に、ユズリハはコロニーのリーダーであるビリーにインタビューしていた。
その様子をユズリハのドローンが飛び、生配信しているところだった。
俺は、インタビューの邪魔にならないように静かに近づいていく。
ビリーのインタビューはとても興味深かった。
「というわけで、
俺たちはダンジョン探索をリタイヤしたわけじゃない。
逆にどうやったらリタイヤしても食べて行けるのか、
教えて欲しいくらいだよ。
今でも現役のダンジョン探索者だ。
どこから来たって?
ここに繋がるダンジョン通路が近くにある。
そこから地上に出るとロサンゼルスから
車で一時間ほど離れた山の麓、森林公園に繋がっているんだ。
地上で食料品や生活必需品を買って、給油して、
またここに戻ってきて寝る。
ここから別のダンジョンに行く日もあれば、何もしない日もある」
ビリーは今でもリタイヤしていない。
現役のダンジョン探索者でありながら、スローライフを楽しんでいるようだ。
ユズリハは、興味を持って、ビリーのインタビューを続けた。
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