第45話 樹木の精霊トレント

「あら、意外と早く追いついたわね」


ブロッケンは大きな岩に隠れているところだった。

ユズリハを安全な岩陰に降ろした俺は肩で息をした。


「はぁ、はぁ、はぁ、……、すみません。

遅くなりました。それで、ここはどの辺なんですか?」


「必死に走って来たから気づかなかったのね。ここが第3層よ」


ブロッケンが指さした方向に目をやると、

大きな樹木に顔が付いた魔物が枝を振り回し、太い根を足にして動いていた。


「何じゃありゃ」


「あれはブラックダイヤモンドが入っている宝箱を守っている番人。

樹木の精霊トレントよ」


「樹木の精霊トレント? どう見てもただの木の化け物だが」


「トレントの向こうに棺のような台があるのが見えて?

あそこに宝箱が置いてありますわ」


「それじゃ、あの魔物を倒せばいいんですね」


「それがね、さっきから戦っているんですけど、

トレントって強いのよねぇ。

あたくしの剣で何度も切り込んでいるのに、

ちっともダメージを受けないみたいなの」


ただの樹木の化け物がそんなに強そうには見えない。


「ほら、来た!よけて!」


火炎ビームがこっちに向かって飛んで来た。

とっさに岩陰に身を縮めて隠れる。


「何これ。火を噴く魔物? 

自分の体も木のくせに平気なんだ。変な奴だな」


ブロッケンは剣を構えて樹木のトレントに向かって行った。

何度か切りかかって、おそらく手ごたえはあったはずなのに、それほどトレントにはダメージが入らない。

ブロッケンがトレントの枝のパンチを受けて転げまわる。


「痛い! 痛いわ! 何これ」


「ブロッケン、大丈夫ですか?」


「今、あたくし油断してました?」


「いいえ、全然」


「ですわよね」


しばらくは、ブロッケンとトレントとの戦を観察させてもらった。


トレントの攻撃はパターン化されている。

攻撃パターンさえ覚えてしまえば、案外、攻撃は避けやすい。

だが、攻撃を避けやすい点が、何かひっかかる。

樹木のくせに火を噴きだす魔物だ。

それもその火力がやばい。

これは避けやすい代わりに、一発でも食らったら終わりだな。


今度は俺が相手だ。

木には木をということで、こん棒を取り出してトレントに向かって行く。

猛烈な火炎が噴き出す。


「火力、やべえ、こいつ!」


ブロッケンは火炎から逃れて、岩の陰から俺にアドバイスをくれる。


「ハチ王子、こいつ火炎ビームを出すからうまくかわさないと即死しますわよ」


ユズリハは安全な岩の陰にいる。

震えながらも中継することを忘れない。

たいしたプロ根性だ。


「こんな魔物見たこともありません。

ブロッケンの剣でさえ通用しないなんてどういうことでしょうか」


俺はこん棒で殴るが、当然びくともしない。

象にアリが戦いを挑んでいるようなものだ。


「おい!ふざけんなよ。こいつ弱いと見せかけてめっちゃ強いじゃん」


ユズリハの中継は続いている。


「ハチ王子が魔物に向かって振りかざしているのは、こん棒です。

え、こん棒? 見間違いじゃありません。

こん棒で魔物と対決しようとしています」



(聞き間違いか?こん棒と聞こえたが)

(目で見てもこん棒に見えるぞ)

(未成年なのか、剣も銃も持っていないのか)

(こん棒は炎で燃えるんじゃないの?)

(ムリだろが)

(絶対、無理ゲー)



トレントは、俺やブロッケンを踏みつぶそうと根っこの足をあげてジャンプする。

その瞬間、真っ赤な火の粉がブアッと噴き出される。


「この火の粉、まき散らしている火の粉に触れただけでも、

こっちがダメージ受けてヒットポイントが下がるわよ!」


「のようですね。俺ダメージ受けたっぽい」


左足に軽くやけどを負った。


「ハチ王子が負傷したようです。みなさん、応援をください」



(がんばれ!ハチ王子)

(君ならできるはずだ!)

(そうだ!ハチ王子ならできるはずだ!)



「マジか、こいつはやべえぞ」




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