第121話 神様の使いだという犬
あれは秋田犬かな? 秋田犬らしき赤毛の犬に俺は近づいてみた。
「あのぅ、すみません。何かおっしゃいました?」
ワンワン!
(言った。おらも連れて行ってけれと言った)
赤毛の秋田犬がしゃべっている。
「爺ちゃん! 犬がしゃべっているよー!」
「なんだってー? いっつも、おかしなこと言うからなぁ、忍は。」
と、言いつつも爺ちゃんは赤毛の秋田犬のところまで歩いて来た。
すると、犬は爺ちゃんにじゃれついた。
ワン!ワン!ワン!
「おー、おー、いい子だ。どこから来た。ずいぶん人馴れしてるな。どこの家の犬だ?
どこから逃げて来たんだ?」
ワン!ワン!ワン!
「まさか捨てられたか?」
ワン!ワン!ワン!
爺ちゃんには、ワン!という鳴き声にしか聞こえないらしい。
しかし、俺には聞こえている。
赤毛の秋田犬が言っている言葉は、
(おらを拾ってけれ。おらなら忍という少年を守れる。おらは山のエキスパートだから)
と。
「爺ちゃん、この犬は自分を拾った方がいいぞと言ってるよ」
「忍、わかるなが? この犬がしゃべっていること」
「うん…、通訳しようか?」
「おお。やってみれ。なんて言ってる」
ワン!ワン!ワン! ワン!ワン!ワン!
「(神様の命令で、この少年を守れと言われた。全力で守るから、おらも山へ連れて行ってけれ)って言ってる」
「神様の命令でが? 神様って、どこの神様だべ。本当だが?
連れて行くのは忍だ。お前が判断しろ、どうするか」
え? 俺が決めていいの。
俺なら速攻で拾うって判断しちゃうよ。
だって、秋田犬だよ、秋田犬。
爺ちゃんがいいと言ってくれたら、拾いたいに決まってんじゃん。
でも心配なのは、犬を連れてマタギの里をあちこち行っても大丈夫なのだろうか。
マタギや警察官に邪魔するなと怒られたり、温泉行ってペットはお断りですと言われたりしないだろうか。
俺の心の中を読んだのか、犬は言った。
ワン! ワン!
(こうして背中におんぶされれば、毛皮を着ているようにみえるから大丈夫だ)
犬は、俺の背中に覆いかぶさって得意気に言ってくる。
一応、爺ちゃんに確認してみるか。
「爺ちゃん、今、犬は何に見えてる?」
「あ? 犬に見えてるども。いくらなんでも爺ちゃんはそこまでボケていないがら!」
全然、毛皮に見えてないじゃん。
聞きました? 犬に見えているって
ワン!
(じゃあ、地面にうつぶせになる。そうすればほら、毛皮の敷物に見えるだろ)
犬は、地面にベタっとうつぶせになってみせた。
俺からみると、やっぱり犬に見えるが、念の為、爺ちゃんに聞いてみる。
「爺ちゃん、じゃ、これは何に見えてる?」
「どうみても、犬だな。んだから、爺ちゃんはボケてないって言ってるべ!」
やっぱ、全然、敷物に見えてないじゃん。
(あれ、おっかしいな。八郎太郎さんから、こうすれば擬態化できるって教わったのに。
言われた通りにやってるんだがなぁ)
「八郎太郎? 爺ちゃん、八郎太郎さんて誰だか知ってる?」
「秋田の伝説に出て来るなや。
背の高い大男で力も強く、心優しい若者が龍になったっていう伝説」
「その人から、擬態の方法を教わったって言ってるよ。全然擬態出来てないけど」
「八郎太郎かぁ、その名前を知っているなら、本当に神様の使いかもしれねぇ」
え、こんなヘタクソな擬態の術を見て、神様の使いだと信じるの?
そんなに素直だと、爺ちゃん、今どきの振り込め詐欺に騙されちゃうよ。
「こんなところに、神様の使いを捨てて行ったら、罰当たりだ」
「マジで? 罰が当たるのは怖い」
「忍が罰当たるのは、爺ちゃんも嫌だ。よし、八郎太郎の使いよ、車さ乗れ!」
「名前、長くね?」
「へば、名前つけよう。八郎太郎は伝説の若者だからなぁ。お兄さん的な名前がいい。
お兄さん……方言でいえば『あんつぁ』だ。我が家のあんつぁ。よし、爺ちゃんちの家で飼うから、『俺の家のあんつぁ』…おらえのあんつぁだ」
「アンツァ? 外国語みたいだな」
「忍がカタカナで呼ぶから、そう聞こえるんだ。もっと秋田訛りであんつぁって呼ばねば」
ワン!
(あんつぁ、そう呼ばれていた気がする。あんつぁだびょん)
「アンツァ de ビョン? って外国語か?」
「それは、『あんつぁだろう』の秋田弁だ。ちゃんと訛っているのか。たまげた!
こいつは本物の秋田生まれの秋田犬だ。
爺ちゃんは気に入った!! さぁ、おらえのあんつぁ、車さ乗れ。おらの家に行こう」
ワン! ワン! ワン! ワン!
(さすが、じさま。ありがとう! お孫さんを全力でサポートさせていただきます!)
秋田訛りがまだ完璧でない俺には、アンツァってカタカナに聞こえるが…。
カタカナでもかっこいいかもな。
犬を家来にした桃太郎になった気分で、俺はアンツァを相棒にすることにした。
アンツァを連れて、山に入る冒険が始まる。
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