第57話 新たな村人発見―2
「最上忍といいます」
「わたしはジュリアよ、初めましてよろしく」
「よろしく……です」
「ご両親は?」
「あ、日本にいます。ダンジョンの外の」
「じゃあ、この小屋や畑は、少年ひとりで作ったの?」
「ええまあ、最近は仲間にも手伝ってもらっていますが・・・」
「仲間がいるのね。どこに」
「今日は来てないです」
「そうなんだ。ちょっと日陰で休みたいんだけどいい?」
アメリカから来たジュリアは、物おじせずにズカズカと小屋の庇が作った日陰に腰かけた。
「あ、なんか飲みます?」
「飲み物があるの? いいわね。ビールちょうだい」
「あいにくアルコール類はなくて……」
「あぁ、ごめん、ごめん。水でも何でもいいわ」
部屋の奥に置いてある冷蔵庫から、冷たい玄米茶をコップに注いで持ってきた。
「お茶しかないけど」
ジュリアは、コップを受け取ると冷たい玄米茶を一口飲んだ。
「冷たい!それに美味しい! 何これ。君がつくったの?」
作ったのは桜庭で、ひやしたのはハヤブサだ。
これは桜庭兄妹が、俺のために作り置きしておいてくれたお茶だった。
「俺じゃありません。仲間です」
「君の仲間、天才ね」
「はぁ…、」
俺の予想した通り、第5層界は他のダンジョンとも繋がっている。
俺が馬の手入れをしている間、ジュリアは玄米茶を飲みながらじっと見ていた。
「ねえ、その馬、欲しい。いくらで売ってくれる?」
買いたいという申し出だ。
どうやら、お客のようだ。
しかし、この馬は愛着があるから最初から売る気は毛頭ない。
「こいつは、売れません。
俺になついているから手放したくないので」
「なんだ残念。
じゃあ、馬が欲しかったらどうしたらいいのか教えてよ」
「それなら、西の山裾に草原があります。
そこに野生の馬がいますよ。
この馬もそこから連れて来たんで」
「ああ、あの山裾ね。随分と遠いなあ。
少年、わたしをそこに連れていって」
「え? 今からですか?」
「ええ、一頭の馬に相乗りして行けば早いでしょ。
帰りはわたしがそこで見つけた馬に乗って帰るから」
「相乗り…、するんですか」
「早いうちがいいわ。どっちの馬が早い?」
「シロなら早いけど…」
「じゃ、それに乗って。
少年が手綱をとる。わたしは後ろに乗るわ」
強引な取引きだ。
俺はまだ承諾していないのに、一方的に物事を進めていく。
ジュリアの言葉に脅される感じで、俺はシロにまたがる。
すると、いとも簡単にひょいとジュリアが俺の後ろに乗って来た。
「さ、連れて行って」
ジュリアの両腕が俺の体を抱き込む形になり、背中に温かい何かがあたる。
「い、いいんですか?」
「早く、急いで!」
「はい」
今出会ったばかりの女性を馬の後ろに乗せて、俺は荒野を駆け抜ける。
いいんですかっていうのは、こんなにくっついてもいいんですかという意味だったのだが。
あまり意識して落馬するといけないから、ジュリアのことは考えないようにした。
「いいね! 気持ちいいわ、風が」
「風ね、風……」
女性だと意識するからいけないんだ。
彼女は大切なお客さま第一号。
今後の商売に大きな影響を与えるかもしれない。
さあ、どうやって商談にこぎつけよう。
アメリカ西海岸のダンジョンからやってきた新たな村人ジュリアを乗せ、俺は白馬にまたがり草原を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます