第43話 小安峡ダンジョンー2
「……てなわけで、
ブロッケンと八王子のブラックダイヤモンドを賭けた競争を、
ユズリハ・チャンネルは配信します。
え?ユズリハはって? わたしですか。
わたしは、もちろんどちらも応援するわよ。
ちゃんとわたしの見せ場も作りますから、
わたしへの応援もよろしくお願いしまーす!」
ユズリハは両手でハートマークを作ってポーズを決めている。
これがアイドル系人気配信者の挨拶か。
こんなポーズで夢中になる奴の気持ちが俺には理解できない。
離れたところで配信を見ている狩野は、それに反応してガッツポーズ取っているが。
お前、ダンジョンに潜入しないだろ!
「では、さっそくダンジョンに潜入しますわよ。
よろしくって? ユズリハファンの皆様」
ブロッケンの合図でダンジョンへの潜入がスタートした。
ダンジョンの入り口は狭い横穴だった。
入り口は狭いが、しばらく行くと広くなりダンジョンらしくなってきた。
最初はトラップが仕掛けられていた。
それは、オーソドックスな針山で、ここは何事もなく三人とも通過する。
次に現れたトラップは斧が付いた振り子が四つ。
四つの振り子はそれぞれが交互に揺れて、行く手を阻んでいる。
斧に触れたら怪我では済まないだろう。
一瞬、足がすくんでたじろぐが、うまくタイミングさえ見つければと通り抜け可能だ。
「ちょっとぉ、ハチ王子、待ちなさいよ。早すぎますわ。
ユズリハ・チャンネルで配信してるんですから、
ユズリハを置いて行ったらあたくし達映らなくってよ」
ブロッケンのいうことは一理ある。
それはいいことを聞いた。
ユズリハが遅れてくれれば、俺は配信に映らなくて済む。
かえって好都合だ。
「すみませーん、ブロッケンさん。忘れてました。
でも、このトラップはタイミングってものがあるので、
それを逃したらトラップにひっかかちゃうんですよ」
俺は、これ幸いと、どんどん先に進む。
四つの振り子のリズムを覚えて軽々と抜けて行った。
ブロッケンも、必死に俺に付いてくる。
ブロッケンが振り子のトラップを抜けた。
さて先へ進もうと足を踏み出したときだった。
後方から女の子の悲鳴が聞こえた。
「きゃ!」
ユズリハだ。
振り子のトラップのちょうど真ん中、二つの振り子と前方の二つの振り子に挟まれた形で動けなくなっていた。
途中で抜けるタイミングを失い前後を揺れる斧に挟まれている。
ユズリハは引き返すことも進むこともできずにへなへなと座り込んでしまった。
「だから言ったじゃない。
あたくしに付いて来るなんて、あなたには無理なのよ。
ユズリハ、悪いわね。あたくしたちは先に行くわ。
配信はここで終了ね。リスナーの皆さん、ご愁傷様です。
じゃ、ごめんあそばせ」
「配信は終了しますかね」
「決まってんじゃない。
カメラはユズリハの最期を映して終わりよ」
「でも……」
「何、もたついているのよ。
ブラックダイヤモンドが欲しくありませんの?
行きましょう、ハチ王子」
「ちょっとだけ待ってもらえませんか」
「だーめ! あたくしは先にいきますわ」
俺は何か納得できなくて、無意識に拳を握っていた。
「お先にどうぞ。俺はユズリハを助け出してから行きます。
すぐ追いつきますんで、ご心配なく」
「はあ? あなた正気? あのトラップに戻るつもりなの?」
「困っている人を見捨てるのは、性に合わないんで」
俺は躊躇なく振り子トラップに向けて踵を返した。
「あっきれた! あたくしは先にいきますわよ。
後悔しても知らないからねー」
背中の方での言葉を背ブロッケンが何か叫んでいるようだが、
俺は振り子トラップのことしか考えていなかった。
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