第15話 喧嘩しちゃだめでしょ

「よっしゃ、俺が桜庭を呼んでくるわ」


このままじゃ終われない。

俺は魔法弾を受けながらも、必死に右の指先をハヤブサに伸ばす。

と、見せかけて実は左手でハヤブサのふくらはぎを勢いよくつかみ、

ひょいと持ち上げながら立ち上がった。

左腕一本でハヤブサの体を釣り上げてみせた。


「おい、ちょっ・・・ま・・・」


待ったも何もない。

持ち上げたハヤブサの一本釣りを両手に持ち替え地面に叩きつける。

埃が再び舞い上がる。

濛々とまわりを包み込んだ土埃が、静かに消えると、衝撃で気を失って倒れているハヤブサの姿があらわになった。



「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 学校で何をしてるのよ」


桜庭を呼びに行った狩野と一緒に、桜庭あずさが駆け寄って来た。


「きゃー! 先生、これはどういうことですか。説明してください」


「最上と桜庭の兄が勝手に喧嘩しはじめた」


嘘だ。

五十嵐先生が戦いの許可を下したではないか。

周りの生徒がざわざわし始める。


「お兄ちゃん!」


「ああ、あずさか。大丈夫だ。お兄ちゃんは大丈夫だから・・・」


「こんなところで喧嘩しちゃだめでしょ」


「あ、ごめん、ごめん。もうしないから」


「もう! 最上君は強いってわたしが言ったでしょう。無茶な事しないで」


「うん、その通りだった。あずさの言った通りだね」


なんだ、ハヤブサってシスコン?

俺に対する態度と、桜庭あずさに対する態度がまるで違う。

兄を心配して駆けつけた桜庭あずさが気の毒に思え、俺は謝った。


「桜庭、ごめんよ。俺、君のお兄さんを伸してしまった」


「最上君、こちらこそごめんなさい。

兄が勝手に学校に乗り込んできて、迷惑かけたんでしょ。

最上君は悪くないわ。悪いのは・・・一番悪いのは・・・・」


桜庭あずさはそこまで言いかけて口をつぐんだ。

そのときだった。

その先を続けてくれたのは、一部始終を見ていた生徒たちだった。


「先生が止めないからだよ。見過ごしたレベルじゃないよこれは」


「そうだ、教師が戦いを勝手に許可するほうがおかしい」


「けが人が出るまで見続けていたのは、五十嵐先生だ」


「本来は止める役目なのに、喧嘩を助長させた」


「一番悪いのは、五十嵐先生だ」


五十嵐先生は非難の嵐を浴びた。


「お前ら、こんなところで居残りしていないで、さっさと帰りなさい!」


生徒たちはムッとしながらも、一応言うことをきいて、帰ろうとした。

だが、きっちり爆弾発言を落とすことは忘れない。


「俺たち、動画をSNSに投稿しましたから。

なんか、いっぱいイイねが付いていますよ。

今、ちょうど拡散してバズってるところでーす」


「な、何ィ?!」


五十嵐先生は真っ赤になって怒りながら生徒たちを追いかけて行った。



とりあえず、ハヤブサとの戦いは終わった。

俺も体が痛いが、倒れているハヤブサを抱き起している桜庭を見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「悪いことしたな、桜庭。許してくれ」


俺のかけた言葉に反応したのは桜庭あずさではなく、兄のほうだった。


「・・・・いいんだよ、最上君だっけ? 

なかなかやるねぇ。妹をよろしく頼む。

幸せにしてやってくれ・・・」


そう言って、ハヤブサは目を閉じた。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん! 死んじゃ嫌―!」


狩野が桜庭の後ろから声をかける。


「いやいやいやいや、気を失っているだけだと思うよ」


それから狩野、もうひとつ付け加えてくれ。

『妹を幸せにしてやってくれは違うと思う』と。

俺たち別に付き合っていないし、ただの同級生ってだけだから。



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