第75話  コテージに行こうー2


 ユズリハ、何しにここへ……


ユズリハは感激しながら、一緒に写真撮影してくださいと言ってスマホを取り出し、狩野に手渡す。

ハヤブサの隣で、愛くるしい表情を作ってカメラ目線でポーズをとっている。

何しに来たんだ、この人は。


「ところで、なにか御用ですか」


「あら、ごめんなさい。

わたしったらハヤブサさんに会えてすっかり舞い上がっていたわ。

御用もなにも、ハチ王子が心配でやってきたのよ。あなたに会いに」


さっきまで、ハヤブサと写真撮影しながら舞い上がっていたのは誰だ。

よく、『あなたに会いに』なんて言えるものだ。


「よくここがわかりましたね」


「わたしを誰だと思っているの? 

わたしのファンの中に東北分校の子がいて、聞きだしたのよ。

寮から通っていない変わり者のハチ王子の家で通じたわ」


変わり者は余計だと思う。

でも、ハチ王子で通じたんだ。


「ちょうどよかった。

僕たち、ペンションが満室だから

コテージに泊まろうよと話してたんだよ。なあ、最上?」


ハイテンションでしゃべりまくる狩野をハヤブサが制する。


「狩野君、最上君はまだ行くと返事していないだろ。

それに、彼がいないとコテージには行けないから、それはまだ決定事項ではない」


「はーい、すみません」


「コテージがあるの? いいわね、行って見たいわ」


狩野が口を滑らすから、コテージが見たいと言い出した。

どうするつもりだ狩野。

俺は知らないからな。


すると、ハヤブサがテラス席の椅子から立ち上がり、荷物を持ってペンションの中に入ろうと歩き始めた。

そして振り向いて言った。


「最上君、わたしにまかせなさい。

あずさの分も一緒に外泊許可もらってくるから」




ハヤブサはフロントで忙しく働いている桜庭に向かい、誰かを呼んでもらっているようだ。

フロントでのやり取りをガラス越しに俺はずっと見ていた。

もちろん、音は聞こえないから、何を言っているのかはわからない。


その様子はまるで無声映画のようだ。


しばらくして、爺ちゃんと母さんがフロントに顔を出した。

何やらハヤブサと話をしている。

ハヤブサは荷物の中から箱を取り出して、母さんに渡している。

母さんは戸惑いの表情をみせていたが、桜庭が手を合わせて何かお願いをしているようだ。

ハヤブサも桜庭も、兄妹そろってペコペコと頭を下げてる。

爺ちゃんが笑いながら母さんに何か言っている。

やがて、母さんがしょうがないわねとでも言っているようだった。

桜庭は喜んで爺ちゃんと母さんにしがみついている。

ハヤブサは丁寧にお辞儀をしてから、桜庭の頭を撫でている。


無声映画終了。

ハヤブサはペンションから出てきて言った。


「外泊許可もらってきたよ。

わたしが最上君に無理をさせない、何かあったらわたしが責任をとると言ってきた。

だから、最上君は道案内だけだ。決して無理はするな」


「本当にいいんですか? 俺、行っても」


「なんだい? 行きたくなかったのかい?」


「行きたいです。行きます。ハヤブサさん、ありがとうございます!」


「なら、決まりだ。あずさがバイトからあがったら出発するぞ」


狩野と俺はお互いに腕を交互にぶつけあって喜んだ。


「それに、わたしは入っているんでしょうね」


ユズリハがはしゃいでいる俺たちをにらむ。

忘れていた。

さて、入ってるんでしょうかね。


「もちろん、君も一緒だ」


ハヤブサは、そう言ってグラスに残っていたアイスコーヒーを飲みほした。


この人って、何をやってもかっこいい。



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